――日本はAIの主権を確立できるのか、新たな依存を生むのか

フィジカルAIの物理セキュリティと、GPU・電力という「見えない依存」を国際比較から検証する

2026年7月22日

発行元: 一般財団法人 日本危機管理研究所

執筆者: 舩山 美保

※ 本稿の政策提言部分(第5章)のみ、2ページに要約した【政策ブリーフ版 PDF】をご用意しています。(読了2分)。政策実務者の方は、以下詳細版をご一読される前に、こちらをご参照いただくことを推奨します。  


要旨

・140MW・GPU約2.75万基の「国産AI」計算基盤は、半導体・重み公開・電力制度という3つの層で海外依存または制度上の空白を抱える。

・日欧米の基幹インフラ制度を比較すると、日本だけがデータセンターを明示的な保護対象に含んでおらず、2026年7月閉会の国会でもこの空白は埋まらなかった。

・本稿はこれをNoetra一件の分析にとどめず、AI主権を評価する『データ・モデル/重み・運用/計算資源/電力・制度』の4層評価フレームワークとして提案し、国際比較・中国とロシアの検証を通じてその妥当性を確かめる。

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目次

新規性(本稿の位置づけ

キーワード

エグゼクティブサマリー

1. なぜ今、この計画を語るべきか

2. 世界的に加速する「主権AI」レースの構図

3. 日本の選択――なぜ「汎用LLM競争」から重点を移したのか

4. 物理セキュリティという新しい脅威領域

5. 学習済みモデルの重み公開とデータ漏洩リスク

6. 半導体供給網という構造的脆弱性

7. データセンターの電力問題――基幹インフラ制度の日欧米比較

8. 結論――四層フレームワークで測る、日本のAI主権の実質

9. 参考資料

10. 用語集


新規性(本稿の位置づけ)

本稿は、Noetraという個別プロジェクトの技術的優劣や成否を論じるものではない。Noetraを具体例として、日本の「AI主権」を検証するための分析視点を提示することを目的とする。

Noetra始動は多くの経済メディアが報じているが、その論調はほぼ例外なく「日本のAI巻き返し」という産業政策の文脈にとどまっている。本稿は次の3点において、既存報道と一線を画す。

  • フィジカルAI特有のセキュリティ論点を体系的に扱う——自律ロボット制御AIという新しい攻撃対象領域、および学習済みモデルの重み公開に伴うデータ漏洩リスクを、学術文献に基づいて整理する。
  • 「国産AI」の実質を供給網の観点から検証する——計算基盤ハードウェアが完全に米国製である事実、および140メガワットの電力需要が日本の経済安全保障法制上どう扱われるかを、政府一次資料に基づいて確認する。
  • Noetra一件の分析から得た着想を、国際比較で検証する——Noetraの事例分析(第4〜7章)から「データ・モデル/重み・運用/計算資源/電力・制度」という4層のAI主権評価フレームワークを着想し、各国の主権AI戦略の比較(第2章、資金規模・戦略焦点・供給網依存の3軸)、および4層すべてを満たしうる国として中国を検証すること(第8章)を通じて、フレームワークとしての妥当性と、民主主義国にとって現実的な政策の優先順位を確認する。

キーワード

FRONTiaプロジェクト

フィジカルAI

主権AI

AI主権の四層評価フレームワーク

経済安全保障推進法

基幹インフラ

半導体供給網

モデル重み公開

データセンター電力

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エグゼクティブサマリー

  • Noetra(ソフトバンク・ソニー・NEC・ホンダ中核、出資44社)は、NVIDIA・NEC・Noetra自身の公式発表により、Vera CPU約13,750基以上、Rubin GPU約27,500基以上、140メガワット容量のAI計算基盤を2027年4月から構築し、2028年6月に稼働させる計画であることが確認できる。
  • 経済産業省は2026年6月30日、NEDOの公募を経てNoetraと産総研を事業実施先に選定したと公式発表した。ただし「初年度3,873億円、5年で総額1兆円規模」という支援額は、経産省・NEDOの公式発表文、および大臣記者会見の公式議事概要のいずれにも記載がなく、ロイター通信等複数の独立した報道機関が報じているものである。
  • 国際比較では、フランス政府公式発表(€1,090億の官民投資表明)・NVIDIA公式発表によるサウジアラビアHUMAIN(最大500MW、数十万基規模のGPU、5年計画)・ドイツ(独テレコム×NVIDIA、GPU最大1万基、投資規模1,300億ユーロ)がNoetraを規模で上回る一方、インド政府公式発表(約12.5億ドル、GPU3.8万基超)・英国DSIT(5億ポンド)・カナダ連邦政府(9.26億ドル)とは同水準かそれ以上である。
  • 日本は汎用フロンティアモデル競争から意図的に距離を置き、製造業データという比較優位のある「フィジカルAI」に資源を集中する独自路線を取っている。
  • フィジカルAIは、自律ロボットが物理世界で意思決定を行うため、従来の情報セキュリティとは異なる「攻撃対象領域の物理化」というリスクを伴う。
  • 学習済みモデルの重み公開方針について、学術研究ではモデル反転攻撃・メンバーシップ推論攻撃・重み改ざん(バックドア埋め込み)による情報漏洩リスクが指摘されている。ただしこれらのリスクがNoetraに具体的にどう当てはまるかは、公開情報からは確認できず、推察の域にとどまる。
  • Noetraの計算基盤(GPU・CPU)は完全に米NVIDIA製であり、経済安全保障上の供給網依存が「国産AI」という呼称と緊張関係にある。
  • 140メガワットのデータセンターが必要とする電力・データについて、経済安全保障推進法上の基幹インフラ制度のいずれにも、データセンター自体が独立した対象分野として明示的には含まれていない。この空白は、2026年7月17日に閉会した第221回国会での法改正でも埋まらず、データセキュリティに関する規律は法案に盛り込まれず「次なる課題」とされたことが、参議院の公式調査資料で確認できる。一方、EUのNIS2指令・米国のCISA重要インフラ制度は、いずれも「デジタルインフラ/情報技術」分野にデータセンターを明示的に含めている。
  • 以上を踏まえ、本稿は「データ・モデル主権/重み・運用主権/計算資源主権/電力・制度主権」という4層のAI主権評価フレームワークを提案する。4層すべてを満たしうる国として中国を検証したところ、中国は電力・制度主権(幅広い裁量的な重要情報インフラ指定制度)とデータ・モデル主権では他国より進んでいるが、計算資源主権(半導体自給)は完全には満たしていないことが確認できた。ロシアとの対比からは、権威主義体制であることに加え、独自の半導体産業基盤を持つことが計算資源主権に近づく条件であると示唆される。この検証から、民主主義国にとって現実的な優先順位は、4層の一挙な統制ではなく、基幹インフラ制度の対象範囲を漸進的に拡張すること(第7章)にあると考えられる。

本稿は、Noetraの産業政策としての是非を論じる一般的なAI政策論ではなく、AI主権の実質をサイバーリスクの観点から評価することを目的とする。以下、本稿はNoetraを具体例に、サイバーリスク(第4〜5章)、経済安全保障(第6章)、制度設計(第7章)という3つの視点から、日本のAI主権の実質を検証する。

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1. なぜ今、この計画を語るべきか

2026年6月30日、経済産業省とNEDOは、同年3月24日から4月22日にかけて実施した公募の結果、Noetra株式会社と国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)を「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の実施先として選定したと公式発表した[1]。事業期間は2026年度から2030年度までである[1]。産総研自身も同日、Noetra株式会社との連名でプレスリリースを発表しており、採択プロジェクトの名称を「実世界ネイティブに資するフィジカルAI基盤技術の研究開発」とした上で、研究開発項目として(1)基盤的能力を備えたAI基盤モデルの開発、(2)マルチモーダル対応能力に関する技術開発、(3)「実世界ネイティブ」なフィジカルAIを見据えた拡張性・評価に関する技術開発の3点を挙げている[1b]。同リリースは、学習済みの重みを国内のモデル開発者や利活用事業者に広く提供する方針を、Noetra単独の発表としてではなく産総研との連名文書の中で明記しており、本稿第5章で扱う重み公開方針が、民間企業単独の判断ではなく国立研究機関を含む事業設計そのものに組み込まれていることが確認できる[1b]。【確認できた事実】 なお、この事業全体は、NVIDIA公式発表および赤沢亮正経済産業大臣自身の発言において、「FRONTiaプロジェクト」という固有名称で呼ばれている。NVIDIA公式発表は「Japan has launched the FRONTia Project, which will serve as the core of the country’s physical AI ecosystem」という大臣発言を引用しており、本稿が扱うNoetraの計算基盤は、このFRONTiaプロジェクトの中核をなす計算基盤という位置づけになる[3]。

【確認できた事実】 経済産業省の公式発表文は、事業の内容・採択の経緯・事業期間を明記しているが、支援額の具体的数値は本文中に記載されていない[1]。念のため、赤沢亮正経済産業大臣の同日(2026年6月30日)の閣議後記者会見の公式議事概要も確認したが、大臣発言・質疑応答のいずれにも金額の記載はなく、大臣自身が「詳細は、後ほど事務方から説明させます」と述べるにとどまっている[1c]。NEDOの公式決定発表および実施先提案概要(一次資料)にも、同様に金額の記載は確認できなかった[1d][1e]。「初年度3,873億円、5年間で総額1兆円規模」という数値は、ロイター通信を含む複数の独立した報道機関が一致して報じているものであり[2]、記者向けの別途の説明資料または非公開のブリーフィングに基づくものと推察されるが、その一次資料そのものは公開情報からは特定できない。本稿ではこの数値を、政府の公式発表文書には明記のない、複数系統の独立報道の一致に基づく数値として扱う。

続いて2026年7月16日、ソフトバンク、ソニーグループ、NEC、本田技研工業の4社を中核に44社が出資するNoetraと、NVIDIAが共同で発表を行った[3][4][5]。NVIDIA・NEC・Noetra自身の公式発表により、次の点が確認できる。NVIDIA DSXプラットフォームを基盤とする「NVIDIA Vera Rubin AIファクトリー」を構築し、Vera CPU約13,750基以上、Rubin GPU約27,500基以上を搭載し、データセンター全体で140メガワットの容量を提供する[3][4][5]。構築は2027年4月に開始し、2028年6月から稼働予定である[4]。開発ロードマップは、2026年度からの日本語推論基盤モデル、2028年度のオムニモーダル基盤モデル、2030年度の「実世界ネイティブAI」へと段階的に進む[4]。学習済みモデルの重みは、NVIDIA NemotronやCosmos、Isaac GR00Tなどのソフトウェアとともに、国内のモデル開発者や企業に順次提供される計画である[3]。

図1:Noetraの計画は、モデル開発(緑)とインフラ構築(青)が並行して進み、2030年度の「実世界ネイティブAI」という最終目標(赤)に収斂する構成になっている。

このニュースは「日本のAI敗北からの巻き返し」という文脈で語られがちである。しかし、サイバーセキュリティの観点からこの計画を精査すると、より重要な論点が浮かび上がる。本稿ではそれを、他国の主権AI戦略との比較を通じて検証する。

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2. 世界的に加速する「主権AI」レースの構図

Noetraは孤立した動きではない。「主権AI(Sovereign AI)」——モデルの重み、計算基盤、データパイプライン、人材を自国でコントロールするという発想——は、2026年には主要経済圏のほぼすべてが予算化する戦略的優先事項となっている。

【本稿の比較対象選定について】 以下で取り上げるフランス・サウジアラビア・インド・英国・韓国は、業界の主権AI動向を追跡する複数の概観情報源(pdpspectra等)で言及された主要国のうち、政府・企業の一次発表で規模・内容を確認できた国を選んだものであり、G7・G20全体を網羅的に調査した結果ではない。後述の通り、ドイツ・カナダも同水準の主要な事例であることが判明したため追加している。UAE(G42)・EUレベルの「AI Gigafactory」計画等、他にも有力な事例が存在するが、本稿の調査範囲では深掘りできておらず、この限りで比較は網羅的でない。

各国の一次発表を確認すると、以下のような違いが見えてくる。

フランス:エマニュエル・マクロン大統領は2025年2月9日、AI行動サミットを前に、今後数年間でフランス国内に1,090億ユーロの官民投資が行われると発表した。フランス政府公式サイト(info.gouv.fr)はこれを確認しており、UAE資金による大規模データセンター建設なども含まれるとしている[6]。Mistral AIは自社データセンターをパリ近郊エソンヌに建設する計画を表明している(同社CEOのメディア発言に基づく)[7]。NVIDIA公式発表(2025年6月11日)によれば、この「Mistral Compute」基盤にはNVIDIA Grace Blackwellシステム18,000基が投入される計画である[7b]。

ドイツ:ドイツテレコムとNVIDIAは2026年、欧州最大級規模となる「Industrial AI Cloud」を発表した。NVIDIA Blackwell GPUを最大1万基搭載し、2026年第1四半期に稼働開始予定である(両社公式発表)[7c]。また、デジタル相カルステン・ヴィルトベルガー氏は2026年3月、2030年までにデータセンター容量を倍増、AI向け容量を4倍にする目標を閣議決定したと発表した。政府・産業界を合わせた投資規模は1,300億ユーロとされる(業界専門メディアの報道に基づく)[7d]。

カナダ:カナダ連邦政府は、AI相エヴァン・ソロモン氏の下、Telus社と提携し、5年間で9億2,560万ドルの政府支援による大規模主権AIデータセンター整備計画(Enabling Large-Scale Sovereign AI Data Centres)を発表した。2032年までに6万基超のGPU、150メガワットの計算能力を目指すとしている(業界専門メディアの報道に基づく)[7e]。

サウジアラビア:NVIDIA公式発表(2025年5月13日)によれば、公共投資基金(PIF)傘下のHUMAINは、NVIDIAとの戦略的パートナーシップにより、今後5年間で最大500メガワットのAIファクトリーを構築し、「数十万基(several hundred thousand)」規模のNVIDIA GPUを導入する計画である。初期フェーズはNVIDIA GB300 Grace Blackwellを18,000基搭載するとしている[8]。

インド:インド政府電子情報技術省(MeitY)および広報局(PIB)の公式発表によれば、IndiaAI Missionは2024年3月に閣議承認され、5年間で103億7,192万ルピー(約12.5億ドル)の予算規模を持つ[9]。2026年の公式発表では、共通計算基盤ポータルを通じて38,000基超のGPUがオンボード済みであるとしている[10]。

英国:英国科学・技術・イノベーション省(DSIT)は2026年4月16日、5億ポンド規模の「Sovereign AI Unit」を発足させたと発表した(技術大臣リズ・ケンダル氏の発言を含め、複数の英国主要メディアが直接引用の形で報じている)。GPUを自前保有するのではなく、スタートアップへの出資と計算資源アクセス権を組み合わせる方式である[11]。

韓国:2023年に発表された260億ドル規模のAI・半導体基金については、政府一次発表への直接アクセスができておらず、本稿では民間調査機関の二次情報として参考に留め、断定的な扱いはしない[12]。

Noetraの公的支援規模(5年で約1兆円、現在の為替水準では概算62億ドル程度)は、フランス・サウジアラビア・ドイツには及ばないが、インド・英国・カナダと同程度かそれ以上の水準にある。

【推察】この為替換算(1ドル≒161円、2026年7月上旬の実勢レート)はあくまで概算であり、44社の民間出資総額が非公開である以上、Noetraプロジェクトの実質的な投資規模はこの数字より大きい可能性がある。

なお、金額は各国の発表の性質(政府予算/官民投資表明/非公表)が異なり単純比較になじまないため、ここではGPU導入規模という共通の物差しで比較する。

図2:日本のNoetraが導入するRubin GPU約27,500基は、インド(IndiaAI Mission、3.8万基超)やフランス(Mistral Compute、NVIDIA公式発表で1.8万基)と近い水準にあり、ドイツ(Industrial AI Cloud、公式発表で最大1万基)を上回るが、サウジアラビア(HUMAIN、NVIDIA公式発表で「数十万基」)とは規模の桁が異なる可能性がある。

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3. 日本の選択――なぜ「汎用LLM競争」から重点を移したのか

ここで着目すべきは、日本が他国と異なる戦略を取っている点である。フランス、サウジアラビアは、いずれも「汎用フロンティアモデルで米中に対抗する」という土俵に乗っている。一方でNoetraが掲げるのは、明確に製造業・ロボティクス向けのフィジカルAIという、より狭く、より日本の産業構造に即した領域である[4]。

経済産業省の公式発表は、この事業の狙いを「我が国の裾野の広い産業を生かした現場データを利活用し、フィジカルAIを実現すること」が日本の「勝ち筋の一つ」であると位置づけている[1]。日本は産業用ロボットや自動化された製造現場において、他国が容易に取得できない秘匿性の高い物理データを蓄積してきた実績があり、汎用対話AIの領域で周回遅れの競争に加わるのではなく、比較優位を持つ領域に資源を集中する——これは戦略として筋が通っている。しかし、この差別化戦略には、一般にまだ十分に議論されていない構造的リスクが伴う。以下、3つの論点に分けて検証する。

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4. 物理セキュリティという新しい脅威領域

生成AIのセキュリティ論議は、これまで主にデータ漏洩、プロンプトインジェクション、モデルの誤情報生成といった「情報空間」の問題を中心に発展してきた。しかしフィジカルAIが目指すのは、AIが自律的にロボットや機械を制御し、現実の物理空間で意思決定を行う世界である。この転換は、セキュリティインシデントの性質そのものを変える。

【本節の前提】 Noetraのシステム構成、PLCとの接続方式、デジタルツインの採用有無、OTネットワーク構成といった具体的な設計情報は、公開情報からは確認できない。したがって本節は、Noetra固有の設計を論じるものではなく、Noetraが採用を表明しているNVIDIA Cosmos・Isaac GR00T等の技術群を踏まえ、フィジカルAI一般が一般的に直面することが知られている攻撃面を、ICS/OTセキュリティ研究の知見に基づいて整理するものである。

第一に、攻撃対象領域(アタックサーフェス)の物理化である。従来のサイバー攻撃は情報の窃取や改ざん、システム停止を目的とすることが多かったが、自律ロボットを制御するAIモデルが汚染・改ざんされた場合、被害は情報空間にとどまらず、工場設備の破損や労働災害など、物理的な人身被害に直結しうる。これは制御システムセキュリティ(OT/ICSセキュリティ)の文脈で以前から指摘されてきた課題だが、汎用マルチモーダル基盤モデルがロボット制御の中核を担うようになると、攻撃者にとっての「単一障害点」が一気に拡大する可能性がある。

第二に、フィジカルAIの検証可能性の低さである。言語モデルの誤りは人間が比較的容易に検知できるが、ロボット制御AIの意思決定プロセスは、リアルタイムかつ複雑な物理環境の中で行われるため、異常検知や監査の難易度が本質的に高い。2030年度に「空間認識などの物理特性を理解し実世界での活用を前提とした」AIを目指すという野心的なロードマップ[4]に対して、安全性検証やレッドチーミングの体制がどこまで並行して構築されるのかは、現時点で公表されていない。

第三に、この種のフィジカルAI基盤モデルが実運用に至る過程では、一般的にPLC(プログラマブルロジックコントローラ)や産業用ロボットコントローラなど、既存のOT機器・ネットワークとの接続が避けられない。NVIDIAが本計画の周辺技術として言及するCosmosやIsaac GR00Tのような基盤モデル群は、シミュレーション環境(デジタルツイン)で学習したモデルを実機に転移させる構成を想定しており、この転移点(sim-to-real)は一般に、シミュレーション上の入力と実機センサーの入力を誤認させる敵対的操作や、実機センサー値そのものを偽装するFalse Data Injection、デジタルツインとPLC間の通信経路を狙った攻撃の対象になりうることが、ICSセキュリティの文献で指摘されている。フィジカルAI基盤モデルを産業用ロボット・工場のOTネットワークに接続する構成を採る限り、一般的なIT系セキュリティ対策(重み検証、アクセス制御等)に加えて、OT/ICS特有の防御層(ネットワークセグメンテーション、異常検知、sim-to-real転移点での入力検証等)が別途必要になる。

【推察】以上で整理したリスクは、Noetra固有の実装を指摘するものではない。公開情報では確認できない設計要素については推測を避け、フィジカルAI一般に共通する攻撃面として整理した。今後、設計方針や安全性評価に関する情報が公開された段階で、実装に即した再評価が必要となる。

なお、サウジアラビアのHUMAINもNVIDIA Omniverseを用いた物理AI・ロボティクスのシミュレーション基盤整備を計画しており、フィジカルAIへの取り組みが日本に固有というわけではない[8]。しかし、Noetraが2030年度の「実世界ネイティブAI」を最終到達点として明確に掲げ、自律ロボットの実運用を前提とするロードマップを主軸に据えている点は、他の主権AI計画と比べても踏み込みが大きい。日本が「独自の強み」として選んだ領域は、同時に「他国にもまだ十分な先例がないセキュリティ課題」を抱えた領域でもある。

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5. 学習済みモデルの重み公開とデータ漏洩リスク

NVIDIAの公式発表によれば、Noetraのマルチモーダル基盤モデルの事前学習済みの重みは、国内のモデル開発者や企業に広く提供される計画である[3]。オープンウェイト戦略自体は透明性や技術波及効果の観点で意義がある。しかし、製造現場の秘匿データで学習されたモデルの重みを公開する場合、学術研究では以下のリスク類型が指摘されている。

【確認できた事実(一般的な学術知見)】

  • モデル反転攻撃(Model Inversion Attack/Data Reconstruction):モデルの出力や勾配情報を悪用し、学習データに含まれる機密属性を復元しようとする攻撃。米国国立標準技術研究所(NIST)が2025年3月に公表した敵対的機械学習の分類法は、これを「プライバシー攻撃」の一類型として位置づけている[13]。
  • メンバーシップ推論攻撃(Membership Inference Attack):特定のデータが学習に使われたかどうかを推定する攻撃。同分類法は、モデル反転攻撃と組み合わせることで、特定データの存在確認とその内容の復元を段階的に行いうる点を指摘している[13]。
  • 重みの改ざん・バックドア埋め込み:モデルの重みファイル自体が悪意ある形で改ざんされ、特定の入力に対してのみ異常な出力をする「バックドア」が埋め込まれるリスクが、オープンウェイトモデル特有の脅威として指摘されている。MITRE社が維持するAIセキュリティの脅威知識ベース「MITRE ATLAS」は、モデル供給網への攻撃(AI Supply Chain Compromise)や訓練データ・配布経路を狙った改ざんを、実際の事例とともに類型化しており、対策として配布元の検証やハッシュ・署名の確認を挙げている[14]。

【推察】 以上はいずれも学術文献・セキュリティ専門家が指摘する一般的なリスク類型であり、Noetraのモデルに対して現実にどの程度当てはまるかは、現時点で公開されているセキュリティ設計の情報が乏しいため断定できない。ただし、製造業の秘匿データを用いて学習したモデルを段階的に重み公開する方針である以上、これらのリスクへの対応方針(差分プライバシー技術の適用、公開前の反転攻撃耐性評価、重み配布時の署名検証体制等)が、今後の情報公開の中でどこまで具体化されるかは、継続的に検証すべき論点である。

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6. 半導体供給網という構造的脆弱性

NVIDIA・NEC・Noetraの公式発表が示す通り、Noetraの計算基盤を構成するVera CPU・Rubin GPUは、いずれも米NVIDIA製である[3][4][5]。「国産AI」という看板を掲げながら、その計算能力の源泉は完全に一企業・一国のサプライチェーンに依存している。

この構図は日本に限った話ではない。NVIDIA公式発表によるサウジアラビアの数十万基規模の調達計画[8]、インド政府発表による数万基規模の調達[9][10]——いずれもNVIDIA製GPUへの依存を前提としている。つまり2026年時点の「主権AI」競争は、実態としては「NVIDIAの生産能力の配分」という側面を強く持っている。

ここに経済安全保障上の懸念が生じる。米国は過去、先端半導体の対中輸出規制を通じて、GPUの供給そのものを外交・安全保障上のレバーとして用いてきた前例がある。現時点で日本や同盟国向けの規制強化が行われる兆候は確認できないが、大規模言語モデルの学習・推論能力が特定国のハードウェア供給に一元的に依存する構造は、地政学的な緊張が高まった局面において、AI開発能力そのものが外部からの影響を受けうるという意味で、看過できない脆弱性を持つ。

【推察】ただし、ここで留意すべきは、「主権AI」という概念自体が単一の定義を持たないことである。少なくとも、(1)どのようなデータで学習するかというデータ主権、(2)モデルのアーキテクチャや重みを誰が管理するかというモデル主権、(3)学習・推論を実行する計算資源を誰が保有するかという計算資源主権、(4)実際の運用・意思決定を誰が行うかという運用主権、という複数の観点が存在する。以上の点から、Noetraの「国産AI」は、データ主権・モデル主権の観点では国内に実質があるものの、計算資源主権(ハードウェア層)の観点では海外依存が大きく、主権の実質は評価する層によって異なると考えるのがより正確である。

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7. データセンターの電力問題――基幹インフラ制度の日欧米比較

もう一つ、見落とされがちな論点がある。Noetraの計算基盤は140メガワットの電力容量を持つデータセンターとして計画されている[3][4][5]。興味深いことに、経済産業省自身がこの点に言及している。同省の公式発表は、「AI利用の爆発的な拡大を踏まえると、エネルギーの自給率が低い我が国は、他国以上にAI利用の省電力化が重要な課題となる」と明記している[1]。日本のエネルギー安全保障上の脆弱性を、AI政策担当省庁自身が認識していることが一次資料から確認できる。

日本には、基幹インフラを対象とした経済安全保障上の制度である「経済安全保障推進法」に基づく特定社会基盤事業者制度が存在する。2026年7月時点の内閣府資料によれば、この制度が対象とする分野は、電気・ガス・石油・水道・鉄道・貨物自動車運送・外航貨物・港湾運送・航空・空港・電気通信・放送・郵便・医療(追加予定)・金融・クレジットカードの16分野である[15]。この制度は、特定重要設備が「我が国の外部から行われるサイバー攻撃、物理的な妨害行為の手段として使用されるおそれ」を審査する枠組みである[16]。

【確認できた事実】 上記16分野のリストには、「データセンター」または「AI計算基盤」を独立した対象分野として明記する項目は存在しない[15]。電力供給元となる電力会社(電気分野)は当然この制度の対象だが、Noetraのデータセンター施設そのものが特定社会基盤事業者としての規律対象になるかどうかは、現行の法制度上明確でない。

海外の枠組みとの比較――日本だけが持つ「空白」なのか

この論点の重要性は、他国の制度と比較するとより明確になる。EUの「NIS2指令」(Directive (EU) 2022/2555)は、サイバーセキュリティ規律の対象となる重要分野を定めているが、EUサイバーセキュリティ機関(ENISA)の公式解説によれば、その中の「デジタルインフラ」分野には、クラウドサービスやDNSサービスと並んでデータセンターが明示的に含まれている[19]。同様に、米国の重要インフラ制度(CISAが所管する16分野、大統領政策指令PPD-21に基づく)では、「情報技術(IT)セクター」が16分野の一つとして公式に指定されており、この分野には大規模データセンターの運用者が含まれるとされる[20]。

【確認できた事実】 EU(NIS2指令)・米国(CISA重要インフラ16分野)は、いずれも「デジタルインフラ/情報技術」を独立した重要分野として明示的に位置づけ、その説明の中でデータセンターを名指ししている。一方、日本の経済安全保障推進法における16分野には、これに相当する独立分野が存在しない[15][19][20]。

図3:EUのNIS2指令、米国のCISA重要インフラ制度は、いずれも「データセンター」を含む分野を重要インフラとして明示的に指定している。日本の経済安全保障推進法の16分野には、これに相当する独立分野が存在しない。

【推察】この違いが生じた背景として、日本の基幹インフラ制度が2022年の法制定時点で電気・ガス・水道など伝統的な物理インフラを主眼に設計されたのに対し、EU・米国の制度はデジタル化の進展を踏まえてより新しい時期に「デジタルインフラ」を独立分野として明文化した、という制度設計の時期的な違いが影響している可能性がある。ただし、これは一つの仮説であり、日本の制度設計者が意図的にデータセンターを除外したのか、単に検討が及んでいないのかは、公開情報からは判断できない(後述の通り、この空白は少なくとも2025年後半以降、政府の法改正論議において具体的な検討課題として扱われている)。いずれにせよ、140メガワット級のAI計算基盤が国家プロジェクトとして稼働を控える中で、この制度上の差異は看過できない論点である。

電力システムに対するサイバー攻撃は、ウクライナ電力網へのマルウェア攻撃のように、実際に大規模停電を引き起こした前例が海外で報告されている(NEC技報における分析)[17]。日本国内では発電施設へのサイバー攻撃による大規模停電の事例はまだ報告されていないが、資源エネルギー庁は電力分野におけるサイバーセキュリティリスクの高まりを公式に認識し、対策ガイドラインを整備している[18]。

なお、AI計算基盤の電力需要をめぐっては、本稿が扱う制度上の位置づけとは別に、系統接続そのものの費用負担と手続きの予見可能性という、実務上のボトルネックも既に顕在化している。東京電力パワーグリッドによれば、2024年度のデータセンター等の接続検討申込は約1,400件、総容量約1億7,200万kWに達している。米国では、この論点への対応が急速に制度化されており、連邦エネルギー規制委員会(FERC)は2026年6月18日、全国6つの広域系統運用者に対し、大口需要家向けの費用配分ルールの見直しを命じる措置を発し、2026年8月17日を期限として回答を求めている。この経済・手続き面の論点については、本財団の別稿で詳細に扱っている。

【推察】140メガワット級のAI計算基盤が2028年に稼働を開始し、今後さらに拡張が計画される中で、こうした国家規模のAI計算基盤を電力供給網の重要な需要家として、あるいは将来的には基幹インフラそのものとして位置づけ直す議論が必要になる可能性がある。

2025年後半:この論点は法改正論議の俎上に載っていた

上記の「空白」は、しかし静的なものではない。経済安全保障法制に関する有識者会議は2025年11月14日の会合で、医療分野を基幹インフラ制度の対象に追加する方向性を示し、実際に医療は追加対象となった[22]。この前例が示す通り、基幹インフラの対象分野は固定的なものではなく、随時見直しの対象となっている。

【確認できた事実】 さらに踏み込んで、同有識者会議の「推進法改正に関する検討会合」第2回資料(2025年12月4日)は、データセキュリティに関する論点として、「大量のデータの保存・処理を行うデータセンター・クラウドサービスを提供する者に関する措置」の検討を明記しており、一定規模以上のデータセンターを念頭に置いた制度的対応が具体的な検討課題として審議されていることが確認できる[23]。これを受け、有識者会議は2026年1月16日の提言骨子において、データセンター及びクラウド上の大量のデータを防護するための措置の検討が必要であるとの方向性を示した[21]。なお、[23]は有識者会議の下に設置された作業部会(検討会合)が審議のために提示した資料であり、確定した政府方針ではなく、検討途上の論点整理として提示されたものである点に留意されたい。

【確認できた事実】 ただし、これらの資料を注意深く読むと、日本で検討されている枠組みは、EU(NIS2指令)・米国(CISA)のように「データセンター事業者そのものを基幹インフラの一分野として指定し、事業者に規律を課す」というインフラ指定型のアプローチとは、必ずしも同一ではない。日本の検討は、「データセンター・クラウド上で処理される情報の漏えいを防ぐ」というデータ保護型の切り口に重心があり、データセンターという物理的な事業者・設備そのものを特定社会基盤事業者の16分野に追加するのか、それとも別建てのデータセキュリティ制度として整理するのかは、2026年1月時点の提言骨子からは確定していない[21][23]。

【推察】この違いは看過できない。もし日本がEU・米国と同じ「インフラ指定型」を採らず「データ保護型」に軸足を置くとすれば、Noetraのデータセンター施設そのものに対する物理的セキュリティ審査(特定重要設備導入時の事前審査等)は、依然として制度の対象外にとどまる可能性がある。

2026年3〜7月:しかし、結局は「先送り」が確定した

本稿執筆時点で状況はさらに進んでいる。政府は2026年3月19日、有識者会議の提言を踏まえた経済安全保障推進法及びJBIC法の一部改正案(閣法第30号)を閣議決定し、第221回国会(令和8年特別会、2026年2月18日~7月17日)に提出した[24]。参議院常任委員会調査室の公式調査資料(2026年4月30日付)は、「提言で示された課題のうち、(キ)のデータセキュリティについては法案に盛り込まれず、次なる課題とされた」と明記している[24]。同資料はさらに、自民党・小林鷹之政調会長が「データセンターの場所や管理者を国として把握できていない」と指摘し、政府に対応を働きかける方針を示したと記録している(『日本経済新聞』2026年3月20日を引用)[24]。

【確認できた事実】 同改正案は参議院で附帯決議(2026年6月9日)を経ており、第221回国会は2026年7月17日に閉会した。医療分野の基幹インフラ追加等を含む改正法は成立した一方、データセンター・クラウドを含むデータセキュリティに関する規律は、この国会サイクルでは法制化されなかった[24]。すなわち、本稿が指摘する「日本の基幹インフラ制度にはデータセンターに相当する分野がない」という空白は、今回の法改正でも埋まらなかったことが確定した事実である。

140メガワット級のNoetraのデータセンターが2028年に稼働を開始する一方で、この空白を埋めるための次の法改正がいつ・どのような内容で行われるかは、現時点で未定である。少なくとも当面は、日本のAI計算基盤に対する物理的セキュリティ審査の制度的根拠は存在しないまま、Noetraのプロジェクトが進行することになる。

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8. 結論――四層フレームワークで測る、日本のAI主権の実質

ここまでの論点を、レイヤー構造として整理すると次のようになる。

図4:Noetraの「国産AI」は、データ層・モデル層では国内主権が確立している一方、重み公開層は要検証、計算基盤層と電力・制度層は海外依存または制度上の空白を抱えている。「国産AI」という言葉が指す範囲は、層によって実質が大きく異なる。

一次資料に基づく国際比較から浮かび上がるのは、次のような構図である。

  • 資金規模では、Noetraはサウジアラビアやフランスの政府・企業発表による投資規模に大きく及ばないが、インドや英国の政府発表と同水準かそれ以上の公的投資を行っている。
  • 戦略の焦点では、日本は経済産業省自身が公式に「勝ち筋」と位置づける通り、汎用フロンティアモデル競争から意図的に距離を置き、製造業データという比較優位のある領域に資源を集中させている点で独自性がある。
  • セキュリティの論点では、フィジカルAI特有の物理セキュリティリスクと、重み公開に伴う学術的に知られたデータ漏洩リスクへの対応方針が、現時点の公開情報からは十分に見えてこない。
  • 供給網の論点では、日本を含む主権AI計画の多くが、事実上NVIDIA一社の生産能力に依存しており、「主権」という言葉が指す範囲がモデル層に限定されている実態がある。
  • 制度の論点では、AI計算基盤の電力・データが既存の基幹インフラ制度の対象分野に明示的に含まれていないという空白が存在する。この空白は、2026年7月17日に閉会した第221回国会でも埋まらなかったことが確定しており、政府・与党自身も「データセンターの場所や管理者を国として把握できていない」という課題を認識しながら、次の法改正課題として先送りしている。

提案:AI主権の四層評価フレームワーク

【本稿の方法論について】 以下に示す4層のフレームワークは、他国比較から演繹的に導いたものではない。実際の分析過程は逆である——Noetra一件を深く分析する中で(第4〜7章)、フィジカルAIの物理セキュリティ、モデル重み公開のリスク、半導体供給網、電力・制度という4つの論点が、いずれも「主権」という同じ問いの異なる層を成していることに気づいた。本稿は、この単一事例から得た着想を、思いつきのまま一般論として提示するのではなく、他国(仏・サウジ・印・英・韓、第2章)との比較、および4層すべてを満たしうる国として中国を検証すること(次項)を通じて、フレームワークとしての妥当性を確かめるという手順を踏んでいる。これは、単一事例の分析から仮説を立て、複数事例でその汎用性を検証するという、事例研究に基づく理論構築の手法であり、本稿はこの手順を隠さず明示する。

以上の方法論を踏まえ、本稿は「国産AIか否か」という二択ではなく、次の4つの軸で主権の実質を評価するフレームワークを提案する。この枠組みは、Noetra一件の分析から着想を得たものであるが、後述の検証を通じて、他国の主権AI政策を評価する際にも一定の適用可能性を持つと考えられる。

図5:AI主権の四層評価フレームワーク(提案)。データ・モデル主権/重み・運用主権/計算資源主権/電力・制度主権の4軸で評価すると、Noetraは軸によって実質の有無が大きく異なることが分かる。

四層すべてを満たしうる国はあるか──中国という参照点

第2章で比較した仏・サウジ・印・英・韓は、いずれも計算資源主権(GPU等ハードウェアの自給)を満たしていない。この観察を踏まえると、自然に生じる問いは、4層すべてを満たしうる国が実在するかである。

最も有力な参照点は中国である。【確認できた事実】 中国の「サイバーセキュリティ法」(2017年施行、2025年10月改正)は、データセンター・クラウドサービスを含むAIシステムを「重要情報インフラ(Critical Information Infrastructure)」の運用者として指定しうる、包括的かつ裁量的な枠組みを定めている。指定された事業者には、データの国内保存、専門セキュリティ管理機構の設置、年次セキュリティ評価等が義務付けられる[25][26]。これは、日本・EU・米国のように業種を列挙する形(電気・ガス・通信等)とは異なり、国家安全保障への影響という機能的な基準で、AI計算基盤を含む幅広い対象を指定できる制度設計である。

計算資源主権についても、中国は急速に進展させている。【確認できた事実】 Huawei・SMICを中心とする中国のAIチップ生産は、2026年時点で数百万個規模のAscendシリーズ半導体を国内生産する計画にあり、2028年までに70〜80%の半導体自給率を目標に掲げている[27]。ただし、【確認できた事実】 SMICの先端プロセスは依然としてオランダASML製のDUV露光装置に依存し、EUV露光装置の国産化は2028〜2030年頃と見込まれる。また、高帯域幅メモリ(HBM)の国内生産能力も、韓国製品への依存を完全には脱していない[27]。

【推察】以上を総合すると、中国は、電力・制度主権(AI計算基盤を含む幅広い対象を国家が指定・統制できる制度設計)と、データ・モデル主権(国家によるデータガバナンス)において、比較対象国の中で最も4層に近い位置にあると考えられる。ただし、計算資源主権については、中国も完全な自給には至っておらず、「4層すべてを完全に満たす国」は、少なくとも本稿の調査範囲内では見当たらない。

この点は、ロシアとの対比でより明確になる。【確認できた事実】 ロシアも、国家主導で「主権AI」を掲げ、Sber・Yandex等を通じてデータ・モデル主権の確立を図り、AIモデルの学習データを国内生成のものに限定する法案の準備も報じられている、中国と同種の権威主義的な統制志向を持つ国である[30]。【確認できた事実】 しかし、計算資源主権については、2022年以降の対露制裁により、中国のSMIC・Huaweiに相当する自国製AI半導体の生産基盤を欠き、備蓄していた欧米製GPU、及び中国製半導体(ByteDance・Alibaba等への供給を優先される、いわば「順番待ち」の立場)への依存を強めている[30][31]。

【推察】ロシアの事例は、本稿の結論に重要な限定を加える。「権威主義体制であれば4層を満たしやすい」という命題は、政治体制の性質だけでは説明が不十分であり、権威主義的な統制と、独自の半導体産業基盤の両方を(不完全ながら)備えていることが、計算資源主権に近づくための条件であると考えられる。中国が比較対象国の中で4層に最も近い位置にあるのは、権威主義体制であることに加え、SMIC・Huaweiという、制裁下でも一定の水準を保つ半導体産業基盤を持つためであり、政治体制の共通性だけでは、同様の位置には至らないことが、ロシアの事例から示唆される。

図6:AI主権の四層フレームワークで見る、日本(Noetra)・中国・ロシアの比較。権威主義体制であっても、半導体産業基盤を欠く場合(ロシア)は計算資源主権を満たせず、政治体制の共通性だけでは4層の実質には至らないことが分かる。

さらに重要なのは、中国がこの位置に至っている制度的な仕組みである。中国のCII指定が幅広い裁量を国家に与えているのは、業種ごとの個別立法を積み重ねた結果ではなく、国家安全保障を理由に、市場や司法手続きの独立した制約を経ずに、対象を指定・統制できる政治体制を前提としているためである。日本・EU・米国のような、業種を個別に列挙し、独立した司法審査や業界団体との調整を経る制度設計とは、そもそもの成り立ちが異なる。

【推察】これは、民主主義体制の下で中国型の「4層一体統制」をそのまま再現することが、望ましいか否か以前に、制度的に困難であることを示唆する。市場経済・独立した司法・業界との調整プロセスを維持する限り、電力・制度主権を含む4層すべてを国家が一体的に統制する体制には、構造的な限界がある。したがって、民主主義国にとっての現実的な出発点は、4層を一挙に満たすことではなく、日本・EU・米国が現に取り組んでいる基幹インフラ制度の見直し(第7章)のように、既存の法制度の枠内で対象範囲を拡張する、漸進的な対応にあると考えられる。この点で、データセンターを基幹インフラとして明示的に位置づけるという、第7章で確認した論点は、抽象的な「制度の空白」ではなく、民主主義国にとって現実的に着手可能な、優先順位の高い出発点として位置づけられる。

政策的含意

サイバーセキュリティに関心を持つ読者に向けて重要な提言は、「国産AI」の議論をモデルの国産化という一面だけで評価するのではなく、上記4軸で継続的に検証していく必要がある、という点に集約される。特に、今後の政策的対応として、次の4点を提起したい。

  • ①フィジカルAI安全基準の整備:自律ロボット制御AIに対する、OT/ICS領域を含めた安全性検証・レッドチーミングの標準的な枠組みを、業界横断で整備する必要がある。
  • ②モデル重み公開ガイドラインの策定:秘匿性の高いデータで学習したモデルを公開する際の、反転攻撃耐性評価・署名検証等を含む技術的ガイドラインを、公開前に整備すべきである。
  • ③AI計算基盤の制度整備:データセンター・AI計算基盤を、基幹インフラ制度上どう位置づけるか(インフラ指定型かデータ保護型か)の方向性を、次の法改正サイクルを待たず早期に確定すべきである。
  • ④GPU供給網の多元化:特定国・特定企業への計算資源依存を緩和するための、供給網の多元化や国内代替技術の育成を、中長期的な政策課題として位置づけるべきである。

Noetraが2028年度のオムニモーダル基盤モデル、2030年度の実世界ネイティブAIへと進む過程で、これらの論点がどう扱われるかが、日本の「AI主権」が実質を伴うものになるかどうかの試金石となるだろう。

政策論としての評価指標

政策論としては、今後Noetraの成否を評価する際、次のような指標を継続的に注視すべきである。NEDOは本事業について、2027年度以降、毎年度ステージゲート審査を実施し、継続可否を判断する方針を示している[1d]。この審査の場で、(1)安全性検証・レッドチーミング体制がどこまで開示されるか、(2)学習済み重みの実際の公開時期・範囲・技術的保護措置の内容、(3)経済安全保障推進法の次期改正における基幹インフラ制度の対象範囲の決着、(4)NVIDIA以外の供給元・国内代替技術の採用状況、という4点が、日本のAI主権が実質を伴うかどうかを判断する具体的な試金石になると考える。

本稿の限界

本稿は、政府・企業の公式発表、学術文献、国会関連資料等、公開されている一次情報の分析に基づく論考である。Noetra・NVIDIA・NECの内部設計資料や、非公開のセキュリティ設計方針にはアクセスしていない。したがって、第4章・第5章で論じたセキュリティリスクは、公開情報から推察される一般的なリスク類型の指摘にとどまり、Noetraの実際のシステムにどの程度該当するかは、今後の情報公開を待って検証する必要がある。

また、第8章の「4層すべてを満たしうる国」の検証には、方法論上の構造的な限界がある。4層のうち3層(データ・モデル主権、重み・運用主権、電力・制度主権)は、国家がどこまで一元的に統制できるかという基準を含んでおり、この基準は定義上、権威主義体制の方が満たしやすい。したがって、「4層すべてを満たす国を探す」という問いの立て方自体が、権威主義国家(中国・ロシア)に行き着きやすい構造になっている。本稿はこの点を踏まえ、中国・ロシアの2カ国のみを検証しており、民主主義国の中に4層の一部または全部を満たす代替的な事例が存在するかどうかは、十分に検証していない。この限定を踏まえてなお、本稿が示すのは「権威主義体制が有利になりやすい枠組みである」という所見自体であり、今後の検証課題として明示しておく。この点についての、より広範な事例に基づく検証は、今後の課題としたい。

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9. 参考資料

Noetra関連(一次情報)

[1] 経済産業省「『AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業』を開始します」(2026年6月30日)

https://www.meti.go.jp/press/2026/06/20260630005/20260630005.html

[1b] Noetra株式会社・国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)連名プレスリリース「マルチモーダル基盤モデルおよびフィジカルAI基盤技術に関する研究開発が、NEDOのAI開発事業に採択」(2026年6月30日、Noetra公式サイト掲載)

https://www.noetra.co.jp/pressrelease20260630-2

[1c] 経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」(2026年6月30日、公式議事概要。金額の記載なし、大臣発言「詳細は、後ほど事務方から説明させます」を含む)

https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2026/20260630001.html

[1d] NEDO「『AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業』の実施体制の決定について」(2026年6月30日、公式決定発表。金額の記載なし)

https://www.nedo.go.jp/koubo/CD3_100431.html

[1e] NEDO「実施先提案概要」(資料3、採択事業の内容詳細。金額の記載なし)

https://www.nedo.go.jp/content/800057655.pdf

[2] ロイター通信「経産省、ソフトバンク主導の企業などに3800億円支援 AIロボ開発」(2026年6月30日、独立した報道による金額の裏付け。ただし政府一次資料には同数値の記載が確認できていない旨、本文参照)

https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/reuters/business/reuters-20260630076

[3] NVIDIA(日本語公式ブログ)「日本政府、産業界のリーダー、NVIDIAが世界初となる国家AIインフラを始動」(2026年7月16日)

https://blogs.nvidia.co.jp/blog/japan-government-industrial-leaders-and-nvidia-launch-the-worlds-first-national-ai-infrastructure

[4] NEC「国産マルチモーダル基盤モデルの開発に向けて本格始動」プレスリリース(2026年7月16日)

https://jpn.nec.com/press/202607/20260716_01.html

[5] Noetra株式会社 公式プレスリリース(2026年7月16日)

https://www.noetra.co.jp/pressrelease20260716

国際比較(政府・企業一次発表を優先)

[6] フランス政府公式サイト info.gouv.fr「Paris accueille le sommet pour l’action sur l’IA」

https://www.info.gouv.fr/actualite/paris-accueille-le-sommet-pour-laction-sur-lia

[7b] NVIDIA Newsroom「Europe Builds AI Infrastructure With NVIDIA to Fuel Region’s Next Industrial Transformation」(2025年6月11日、Mistral AI「Mistral Compute」向けGrace Blackwell 18,000基の記載を含む)

https://nvidianews.nvidia.com/news/europe-ai-infrastructure

[7c] Deutsche Telekom公式プレスリリース「AI sovereignty for Germany and Europe: Deutsche Telekom launches one of Europe’s largest AI factories with NVIDIA」(NVIDIA Blackwell GPU最大1万基の記載を含む)

https://www.telekom.com/en/media/media-information/archive/ai-sovereignty-for-germany-and-europe-1098708

[7d] The AI Insider「Germany’s AI Strategy: Funded But Stuck」(2026年7月、デジタル相ヴィルトベルガー氏のデータセンター倍増目標、1,300億ユーロ規模の投資報道)

[7e] The AI Forest「The Rise of Sovereign AI Data Centers: Why Every Nation Wants Its Own AI Infrastructure in 2026」(2026年5月、カナダ連邦政府のEnabling Large-Scale Sovereign AI Data Centres計画、9億2,560万ドルの記載を含む)

[7] Euronews「Sommet sur l’IA: 109 milliards d’euros d’investissements en France」(マクロン大統領発言の報道)

https://fr.euronews.com/next/2025/02/10/sommet-sur-lia-109-milliards-deuros-dinvestissements-en-france

[8] NVIDIA Newsroom「HUMAIN and NVIDIA Announce Strategic Partnership to Build AI Factories of the Future in Saudi Arabia」(2025年5月13日)

https://nvidianews.nvidia.com/news/humain-and-nvidia-announce-strategic-partnership-to-build-ai-factories-of-the-future-in-saudi-arabia

[9] インド広報局(PIB)「Press Release Page」(IndiaAI Mission予算に関する政府公式発表)

https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2178092&reg=3&lang=2

[10] インド電子情報技術省(MeitY)Digital India公式サイト「IndiaAI Mission Expands AI Ecosystem with Affordable Compute and Startup Support」

https://www.digitalindia.gov.in/press_release/indiaai-mission-expands-ai-ecosystem-with-affordable-compute-and-startup-support

[11] Computer Weekly「UK government’s £500m sovereign AI fund bids to commercialise research」(DSIT公式声明の直接引用を含む)

https://www.computerweekly.com/news/366641682/UK-governments-50m-sovereign-AI-fund-bids-to-commercialise-research

[12] Universal Asset Owners「Sovereign AI Funds: How Governments Are Investing in Artificial Intelligence」(※韓国の260億ドル規模基金について、政府一次発表未確認のため参考情報として扱う)

https://www.universalassetowners.com/sovereign-ai-funds-explained

モデル重み公開のセキュリティリスク(学術・専門家文献)

[13] NIST(米国国立標準技術研究所)「Adversarial Machine Learning: A Taxonomy and Terminology of Attacks and Mitigations」NIST AI 100-2e2025(2025年3月、モデル反転・メンバーシップ推論・モデル抽出等のプライバシー攻撃を含む公式分類法)

https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ai/NIST.AI.100-2e2025.pdf

[14] MITRE ATLAS(Adversarial Threat Landscape for Artificial-Intelligence Systems):AI供給網攻撃・モデル改ざんに関する脅威知識ベース

https://atlas.mitre.org

電力・基幹インフラ制度(一次情報)

[15] 内閣府「経済安全保障推進法における特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度(説明会資料)」2026年7月7日

https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/infra/doc/infra_setsumeikai.pdf

[16] 総務省「経済安全保障推進法」解説ページ

https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/kokumin/keizaianzenhosho/index_00001.html

[17] NEC「重要インフラに対するサイバー攻撃の実態と分析」NEC技報 Vol.70 No.2

https://jpn.nec.com/techrep/journal/g17/n02/pdf/170204.pdf

[18] 資源エネルギー庁「電力システムにおけるサイバーセキュリティ リスク点検ガイド」令和6年3月

https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240322003/20240322003-a-1.pdf

国際比較(基幹インフラ制度)

[19] ENISA(EUサイバーセキュリティ機関)「Cybersecurity of Critical Sectors」(NIS2指令における重要分野の公式解説)

https://www.enisa.europa.eu/topics/cybersecurity-of-critical-sectors

[20] CISA(米国サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)公式サイト「Critical Infrastructure Sectors」

https://www.cisa.gov/topics/critical-infrastructure-security-and-resilience/critical-infrastructure-sectors

[21] 経済安全保障法制に関する有識者会議「経済安全保障推進法改正に関する提言骨子(データセキュリティ)」(2026年1月16日)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r8_dai14/teigenkosshi_6.pdf

[22] 経済安全保障法制に関する有識者会議 資料1(2025年11月14日、医療分野の基幹インフラ制度への追加方針を含む)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r7_dai12/shiryo1.pdf

[23] 経済安全保障法制に関する有識者会議「推進法改正に関する検討会合」第2回資料9「データセキュリティ制度の検討について」(2025年12月4日)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r7_dai13/shiryo9.pdf

[24] 参議院常任委員会調査室・特別調査室「経済安全保障の更なる推進に向けた法改正-経済安全保障推進法及びJBIC法の一部改正案-」『立法と調査』2026年4月 No.483(データセキュリティ論点の法案不算入、小林鷹之政調会長発言、第221回国会の会期を含む)

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2026pdf/20260430003.pdf

中国の制度・半導体自給に関する参照情報

[25] Regulations.ai「Cybersecurity Law of the People’s Republic of China」(2016年制定・2025年10月改正、AIシステムを含む重要情報インフラ(CII)運用者への適用を明記)

https://regulations.ai/regulations/RAI-CN-NA-CPRCXXX-2016

[26] DigiChina (Stanford University)「After 5 Years, China’s Cybersecurity Rules for Critical Infrastructure Come Into Focus」(CII認定制度の詳細解説)

https://digichina.stanford.edu/work/after-5-years-chinas-cybersecurity-rules-for-critical-infrastructure-come-into-focus

[27] TechWireAsia「China’s chip self-sufficiency push is real this time–but the target has been here before」(2026年5月、SMIC・Huaweiの生産能力とASML依存・HBM制約の分析)

https://techwireasia.com/2026/05/china-semiconductor-self-sufficiency-wafer-target-2026

[30] GINC「Russia’s National AI Strategy」(2026年1月、国家主導の「フルスタック主権」戦略、データ国内生成限定法案の準備を含む)

https://www.ginc.org/russias-national-ai-strategy

[31] Tom’s Hardware「Russia’s Sberbank wants Chinese chips for its GigaChat AI in the face of Western sanctions」(2026年5月、中国製半導体供給の優先順位・制裁下の調達実態)

https://www.tomshardware.com/tech-industry/artificial-intelligence/russias-sberbank-wants-chinese-chips-for-its-gigachat-ai

為替レート参考:外為どっとコム(2026年7月5日、USD/JPY 160円台〜162円台で推移との記述)

https://www.gaitame.com/media/entry/2026/07/05/060200

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10. 用語集

フィジカルAI

工場、ロボット、車両など現実世界の物理的作業とAIを結びつける技術領域。従来の対話型生成AIと異なり、物理空間での自律的な意思決定と動作を伴う。

FRONTiaプロジェクト

経済産業省が主導する「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」の通称。NVIDIA公式発表および赤沢経済産業大臣自身の発言で用いられている名称であり、Noetraの計算基盤はこのプロジェクトの中核をなす。

実世界ネイティブAI

Noetraが2030年度の到達目標として掲げる、空間認識など物理特性を理解し実世界での活用を前提としたAIの呼称。

主権AI(Sovereign AI)

モデルの重み、計算基盤、データパイプライン、人材を自国でコントロールするという考え方。サプライチェーンリスクとデータ主権の2つの動機に基づく。

オープンウェイト(重み公開)

学習済みモデルのパラメータ(重み)を外部に公開し、第三者が利用・改変できるようにする方針。透明性・技術波及の利点がある一方、セキュリティリスクを伴う。

モデル反転攻撃(Model Inversion Attack)

モデルの出力や勾配情報を悪用し、学習データに含まれる機密情報を復元しようとする攻撃手法。

メンバーシップ推論攻撃(Membership Inference Attack)

特定のデータが学習に使用されたかどうかを推定する攻撃手法。モデル反転攻撃と組み合わせて使われることがある。

経済安全保障推進法

2022年5月成立。基幹インフラ事業者が重要設備を導入する際、事前に国の審査を受ける制度等を定めた法律。2026年7月時点で16分野が対象。

特定社会基盤事業者

経済安全保障推進法に基づき指定される、基幹インフラを担う事業者。重要設備の導入・維持管理委託の際に事前審査を受ける義務を負う。

OT/ICSセキュリティ

Operational Technology(制御技術)/Industrial Control Systems(産業制御システム)のセキュリティ。工場や発電所などの物理設備を制御するシステムを対象とする。

重要情報インフラ(CII:Critical Information Infrastructure)

中国のサイバーセキュリティ法に基づく制度で、国家安全保障への影響という機能的な基準により、データセンター・クラウド・AIシステムを含む幅広い対象を、重要情報インフラの運用者として指定しうる。日本・EU・米国のように業種を列挙する制度とは異なり、指定範囲が国家の裁量に委ねられている点が特徴。

AI主権の四層評価フレームワーク

「国産AIか否か」という二択ではなく、データ・モデル主権/重み・運用主権/計算資源主権/電力・制度主権という4つの軸で、AI政策の主権的実質を評価する分析枠組み。本稿がNoetraの事例分析から着想を得て提案し、国際比較および中国・ロシアとの対比を通じてその妥当性を検証したもの。特定の国・企業に限定されない一般的な適用を意図している。

本稿は公開情報の分析に基づく論考である。引用元は本文中および参考資料に明記した実在するURLのみを使用し、政府・企業の一次発表を優先した。一次発表で確認できなかった数値・事実は、その旨を明示した上で複数系統の報道の一致として扱っている。事実と推察は明示的に区別した。

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筆者:舩山美保 一般財団法人 日本危機管理研究所 理事

国際標準化、技術インテリジェンス、知的財産分析、地政学・危機管理を専門とする戦略アナリスト。キヤノン株式会社において国際標準・新技術分野の特許調査および戦略分析業務に従事。ISO/IEC JTC 1/SC 28(オフィス機器)副国際幹事として、国際規格策定および多国間交渉の調整を担い、国際標準化活動への貢献によりITSCJ国際標準化貢献賞を3回受賞。現在、中東アジア情報戦略研究所フェロー。公益社団法人 日本外国特派員協会(FCCJ)プロフェッショナル・アソシエイト会員。上智大学外国語学部卒業。青山学院大学大学院修了(国際政治経済学・哲学・心理学)。

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本財団の執筆体制について
本財団の分析記事は、理事・主任研究員による一次資料調査に加え、実務家・研究者による寄稿論考(寄稿論考カテゴリ)を通じて、複数の専門的視点を反映する体制を採っています。寄稿を希望される研究者・実務家の方は、[お問い合わせ]よりご連絡ください。

*本稿の引用・転載は、出典(一般財団法人日本危機管理研究所/著者名/URL)を明記いただく場合に限り自由です。見出しや文脈を変更した抜粋転載はご遠慮ください。

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