米国がAIを「SI(超知能)」と呼び替える一方、中国は国際標準の場に人と規格を積み上げてきた。米中の交渉の席にいない日本にも、打てる手はある。既存の外交資産を軸に、日本のAI主権を守る五つの現実的な提言を示す。
本稿が問うのは、中国が国際標準を支配しているかではない。AIの安全を定義し、評価し、認証し、監査する制度を、誰が設計し、誰が第三国に採用させるのかである。本稿は、今後12か月で何が起きればこの見立てが支持され、何が起きれば否定されるかを示す(最初の検証点は11月の米中AI対話である)。
2026年10月6日
発行:一般財団法人 日本危機管理研究所
※本稿は日本語版です。英語版は別稿として発行予定です。
キーワード
- SI(Super Intelligence/超知能)への改称と大統領令
- 米中SI対話/人工智能政府間対話
- 思想輸出進行度指標(Ideological Infiltration Index)の国家間への転用
- 現在観察される二つの統治・標準化アプローチ
- 国際標準化(ISO/IEC JTC 1/SC 42)
- 継続的参加能力(国際標準化への人的・制度的な累積過程)
- 公式の国際標準と先端AIの安全基準の二層構造
- AIセキュリティ上の決定権(検査の範囲・重要システムへの関門・脆弱性情報へのアクセス)
- 広島AIプロセス・フレンズグループ
- 開かれたAI主権
本稿のねらい
2026年9月、米国は「AI(人工知能)」を「SI(Super Intelligence、超知能)」と呼び替える大統領令に署名し、同じ週の米中首脳会談の米側文書には「両首脳がSIという語の使用で合意した」と記された。一方、中国側の公式発表は「人工智能」という従来の語を使い続けている。呼称の変更は、統治の対象をどう定義するかに影響しうる。本稿はこの食い違いを出発点に、その呼称が今後の外交文書・標準・規制に定着するかを追跡する観測可能な仮説を立てる。
背景にある見立ては次のとおりである。AIをめぐる安全保障上の競争は、モデルや半導体にとどまらず、用語・評価・監査・標準・人材・第三国の参加という制度の層にまで広がっている。そして日本には、この制度の層に介入できる既存の資産がある。
冒頭の問いを一言で言えば、AIについて「定義する権限」を誰が持つかである。AIを何と呼ぶか(呼称)、何を安全とするか(標準)、どのAIが安全かを誰が判定するか(認証と監査)は、いずれもこの権限の現れである。呼称の食い違いは、その入口にすぎない。
エグゼクティブサマリー
- 米国は9月22日の国連総会演説でAIを「super intelligence」と呼ぶと表明し、9月29日に大統領令「Inaugurating the Era of Super Intelligence」に署名した。大統領令は、行政各省庁の公式文書・対外発信・ウェブサイト・報告書などで「AI」に代えて「SI」を用いるよう定めるもので、法令は対象外であり、中国や国際標準への言及もない。10月4日には、国家情報長官が率いる政策調整の組織「Super Intelligence Force」の創設も発表した。
- 9月25日のホワイトハウスのファクトシートは「両首脳がSIという語の使用で合意」と記したが、中国外交部は9月26日、米側の呼称を「尊重する」と述べたものの、自らの発表では「人工智能」を用い、対話の名称も「人工智能政府間対話」としている。同じ対話が、両国で別の名前で呼ばれている。
- 現在、二つの統治・標準化アプローチが観察される。一つは、個別のリスクを行政措置・政府調達・企業の自主規制で管理する方向で、米国が重心を置く(9月29日には主要6社が、社内監視・外部監査・取締役会による監督を約束する罰則なしの合意に署名した)。もう一つは、統治の要件を国家規格・国際標準・多国間枠組みに組み込む方向で、中国が重心を置く。どちらの国も両方の手段を用いており、違いは重心の置き方にある。
- AIの安全の標準を決めることは、どの脅威を検査の対象にするか、どのAIを重要なシステムに入れてよいか、誰が脆弱性の情報を見られるかを決めることである。これらはサイバーセキュリティの中核であり、標準をめぐる競争は、サイバーセキュリティ上の決定権を誰が持つかをめぐる競争でもある。米中はすでにAI事案の連絡チャネルの設置で一致し、AIへのサイバー脅威に関する国際規格ISO/IEC 27090も発行の最終段階にある。
- 国際標準化の分野では、中国の強みは要職の数でも人数そのものでもなく、参加を途切れさせずに積み上げ、役職・作業文書・他国の支持・自国規格の国際化へと転化していく「継続的参加能力」にある。筆者の実務経験では、中国は2000年代初頭から、自国で開発が始まっていない分野の作業部会にも複数名を送り込んでいた。AI分野では、米国の先端企業が公式の国際標準化の場の外で独自の安全基準を作ろうとしており、その場に生じた空白に、中国が国内規格を持ち込む余地が生じている。
- 日本は米中二国間の意思決定の当事者ではない。一方、SC 42の主査数(日本2、中国1)や、ASEAN9か国を含み、総務省によれば84か国・地域が参加する広島AIプロセスのフレンズグループなど、多国間の標準化・ルール形成に参加できる資産を持つ。本稿はこれらを軸に、継続的参加能力への投資を第一とする五つの提言を示す。あわせて、米国が新設した政策調整の組織が報告書をまとめる2027年2月初めまでに、同盟国との情報共有を働きかけるよう求める。
- 呼称変更には国内世論対策という有力な代替説明がある。本稿はこれを退けず、動機がどうであれ用語が二国間文書に入り込んだ事実とその定着の成否を、11月の米中対話の成果物で検証する。
今後12か月で見るべき5つのシグナル
- 中国の公文書が「SI/超級智能」を採用するか(検証指標H2)
- 11月の米中AI対話に、標準化が議題として入るか(H5b)
- 中国のAI安全規格が、ISO/IEC・ITU-Tへ国際提案されるか(H5a)
- ASEAN諸国が、SC 42のPメンバーとして参加を広げるか(提言③の成果指標)
- 第三国の政府が、調達・規制文書でISO/IEC等の国際標準と企業独自の基準のどちらを参照するか(H6)
本稿の視点と新規性
本稿の視点は四つある。第一に、計算資源や輸出管理といった物理的な制御点ではなく、呼称そのものを制御点として扱うこと。第二に、当研究所の既刊「思想輸出進行度指標(Ideological Infiltration Index)」を、思想ネットワークの浸透から国家間の統治モデル輸出へ転用し、その判定基準と否定基準を明示的に読み替えること。第三に、国際標準化を呼称・統治手法に続く制御点として位置づけ、筆者が国際標準化の現場で見てきた中国の人的投入の実態と重ねて検討すること。第四に、AIの安全の標準が、検査する脅威の範囲、重要なシステムに入れてよいAI、脆弱性の情報を見られる者を決めることに着目し、標準化の競争をサイバーセキュリティ上の決定権をめぐる競争として捉え直すことである。
目次
5. 第一のアプローチ:個別のリスクを行政措置・調達・自主規制で管理する
6. 第二のアプローチ:統治要件を規格・国際標準・多国間枠組みに組み込む
1. 序論 ── なぜ「呼称」が制御点になるのか
AIをめぐる国際的な議論では、半導体や計算資源、輸出管理といった物理的な制御点に注目が集まりやすい。しかし、ある技術を何と呼ぶかは、その技術に何を期待し、誰がどの範囲で規制すべきかという前提を規定する。呼称は、何を議題とし、何を警戒の対象とするかという枠組みに影響しうる。
とりわけ「superintelligence」という語は、AI安全性の議論において、人間の知的能力を広く上回る将来の知能(いわゆるASI)とそのリスクを指す語として使われてきた。現在のAI全般をSIと呼ぶことは、その語が担ってきたリスク議論の輪郭をぼかす効果を持ちうる(本稿の推察)。呼称の変更は、単なる言い換えではなく、何を警戒の対象とするかの再定義を伴う可能性がある。
2. 時系列と米中発表の食い違い
公式文書と報道で確認できる経緯は次のとおりである。
| 日付 | 出来事 | 主な出典 |
| 9月19日 | Trump大統領、Truth SocialでAIの代替名として「Superior」「Extreme」「Supreme」の3案を示し投票を呼びかけ。同日、「AI Force」の創設と責任者の任命を表明 | The Hill、CBS ほか報道 |
| 9月22日 | 国連総会演説で、AIを「super intelligence」と呼ぶと表明 | ホワイトハウス、Axios |
| 9月25日 | 米中首脳会談(Xi国家主席の国賓訪米)。米側ファクトシートに「SIという語の使用で合意」「SI対話を設置し11月までに次回会合」「SI事案の連絡チャネル設置」と記載 | ホワイトハウス |
| 9月25日 | D.C.巡回区控訴裁、国防総省によるAnthropic社の「サプライチェーンリスク」指定を2対1で支持 | Military Times ほか |
| 9月26日 | 外交部の報道官が、米側の「超級智能」という呼称について「米側の立場を重視し、米側の提法も尊重する」と回答。同日、王毅外相が訪米成果を説明し、AIについて「人工智能」の語を使用 | 中国外交部 |
| 9月28日 | 外交部の郭嘉昆報道官、国連を主な場とする「公正合理的な全球人工智能治理体系」を主張し、「人工智能政府間対話」等を通じた意思疎通に言及 | 中国新聞網、21世紀経済報道 |
| 9月29日 | America.gov公開の場で大統領令に署名。同日、主要AI企業による自主規制合意の署名も発表。Trump大統領は「Xi主席も気に入っている」と発言 | ホワイトハウス、PBS、Daily Signal |
| 10月4日 | Trump大統領、「Super Intelligence Force(SIF)」の創設を発表。国家情報長官が率い、FTC委員長、国防総省の最高技術責任者、人事管理局長が加わる。9月19日に表明した「AI Force」に続く発表である | ロイター、ITmedia ほか報道 |
SNS投稿(9月19日)から、二国間の公式文書に「合意」として記載されるまで(9月25日)が6日、大統領令の署名(9月29日)までが10日である。この日数は経過の速さを示す記述であり、それ自体が定量的な分析結果ではない。同様の速度が他の用語や規範でも再現されるかは、今後の比較検証の課題である。
さらに10月4日には、この呼称を冠した政策調整の組織が設けられた。呼称は、文書の用語から組織の名称へと広がっている。
9月25日の会談をめぐる両国の公式発表を比べると、一致点は「AIのリスクと利益に関する対話(11月予定)」と「AI関連事案の連絡チャネル」の2点にとどまる。最も象徴的な食い違いは、呼称そのものである(発表全体の比較は付録A)。
| 論点 | 米側(ホワイトハウス) | 中国側(外交部) |
| 用語 | 「両首脳がSIという語の使用で合意」と記載 | 「人工智能」を使用。「超級智能」の語は現れない |
| 対話の名称 | U.S.-China Super Intelligence (SI) Dialogue | 人工智能政府間対話 |
中国外交部の報道官は9月26日、米側が「超級智能」を使っていることへの評価を問われ、「中国側は米側の立場を重視し、米側の提法も尊重する。人工智能の技術は発展を続けており、各方面は最新の情勢を踏まえて交流を強め、深く検討し、共通認識を求めることができる」と答えた。相手の呼称を尊重すると述べながら、自らは「人工智能」を使い続けている。
同じ対話が、両国で別の名前で呼ばれている。 9月28日の外交部会見では、外国記者が「AI対話の仕組みは米側の考え方をより多く反映しているのではないか」と質問し、報道官は中国の立場を改めて述べるにとどめた。9月29日の「Xi主席も気に入っている」という発言はTrump大統領による伝聞であり、中国側からの確認は得られていない。
3. 代替説明の検討:国内政治説
呼称変更を「対外的な統治の主導権争い」として読む前に、より単純な説明を検討しておく必要がある。複数の米主要メディアは、この改称をAIに対する国内の反発や世論調査の動向への対応として報じている。また、大統領令の条文は、行政各省庁の公式文書・対外発信など法令以外の文書を対象とし、中国や国際標準には触れていない。
したがって、改称の動機は国内向けであった可能性が高い。本稿はこの説明を否定しない。本稿が問うのは動機ではなく、国内向けに生まれた用語が、首脳会談の文書を通じて二国間の外交文書に入り込んだという事実と、それが相手国側で定着するかどうかという帰結である。国内政治説と対外主導権説は排他的ではなく、第9節で両者を区別する指標を示す。
なお、10月4日に国家情報長官が率いる組織がこの呼称を冠して設けられたことは、呼称が行政組織に組み込まれ始めたことを示す。ただし、報じられている任務は連邦政府内の調整と国内の関係者との対話であり、同盟国との連携や国際標準への言及は確認できない。
4. 分析枠組み:既刊指標の転用と否定基準
当研究所の既刊「四段階指標で読む、思想輸出のリスク」(2026年6月28日)は、思想ネットワークの国境を越えた浸透を、①思想的接触、②インフラの代替、③政策言語への翻訳、④政権への直接接触、の四段階で捉え、各段階に判定基準と対になる「否定基準」を設けて反証可能性を確保している。本稿はこの構造を、国家間の用語や統治モデルの輸出(本節)と、国際標準化への人的投入(第7.4節)の二つの場面に転用する。
本節では、①を「相手国が用語に言及する」、③を「相手国の独自の公文書に用語が記載される」、④を「常設の二国間対話が設置される」と読み替える。否定基準は、たとえば①では「外交儀礼上の言及にとどまり、相手国の独自文書で使われない場合は該当しない」とする(読み替えの全体は付録D)。
適用結果(10月5日時点):中国側は米側の呼称を「尊重する」と述べたが、自らの文書では「人工智能」を用いている。これは外交儀礼上の言及にとどまり、①の否定基準に該当するため、米国の用語は①の段階でも採用されていない。他方、④の対話チャネルは形式上設置が合意された。国家間では、用語の採用を経ずに対話の場が先に設けられうることを示しており、既刊指標が想定した段階の順序は、国家間の文脈では必ずしも成り立たない(本稿の推察)。
5. 第一のアプローチ:個別のリスクを行政措置・調達・自主規制で管理する
現在、AIの統治と標準化には二つのアプローチが観察される。ただし、これは国ごとの排他的な型ではない。米国もNIST(米国立標準技術研究所)のAIリスク管理の枠組みのような一般的な指針を持ち、中国もレアアースの輸出規制のような個別の措置を用いている。違いは、どちらに重心を置くかにある。
第一のアプローチは、事前に一般的な規格で縛るのではなく、行政措置・政府調達・企業の自主規制によって個別のリスクを管理する方向であり、米国がこちらに重心を置く(詳細は付録C)。
- 輸出管理と調達からの個別排除:輸出管理による特定モデルの一時的な提供停止(2026年6月)や、国防総省によるAnthropic社の「サプライチェーンリスク」指定(9月25日に控訴審が2対1で支持)など、個別の判断で対象を選別している。
- 企業の自主規制合意:9月29日、Google・Meta・Anthropic・OpenAI・xAI・Nvidiaの6社が「White House Accord on Super Intelligence」に署名した。先端モデルを対象に、①サイバー・生物・化学の脅威や意図しないシステムへの侵入を含む能力と整合性の社内監視、②それを点検する社内チーム、③独立した外部監査人による評価、④取締役会の独立委員会による監督、の四層を約束する。罰則はなく、署名企業は定期的に集まって安全基準を定めるとし、将来の法制化にも含みを残す。バンス副大統領は、FTCと司法省の既存の権限で十分だとしている。
- 政策の司令塔の設置:10月4日、Trump大統領は「Super Intelligence Force(SIF)」の創設を発表した。国家情報長官が率い、FTC委員長、国防総省の最高技術責任者、人事管理局長が加わり、大統領と首席補佐官に報告する。副大統領、国防長官、財務長官も加わると報じられている。任務は、米国がSIで世界を主導し続けるよう連邦政府の取り組みを調整することで、消費者、公益団体、重要インフラ事業者、AI企業との対話も担う。報道によれば、この組織は120日以内に、AIがもたらすリスクと機会を評価し、連邦政府が果たすべき役割を提言する報告書をまとめる。設置の法的な根拠は報じられていない。情報機関を統括する国家情報長官が責任者となったことは、米国がAI政策を安全保障の系統で調整しようとしていることを示唆する(本稿の推察)。
- 有志連合(Pax Silica):国連という普遍的な場よりも、価値を共有する国々との連合を優先している。日本も署名国である。
6. 第二のアプローチ:統治要件を規格・国際標準・多国間枠組みに組み込む
第二のアプローチは、統治の要件を国家規格・国際標準・多国間枠組みに組み込み、多国間の場で普遍性を主張する方向であり、中国がこちらに重心を置く(詳細は付録C)。
- 強制国家規格の存在:国家標準委の6月27日付の通知と新華社(7月28日)により、AIエージェントの安全に関する強制国家規格「智能体応用安全基本要求」の立項が確認できる。主管は中国のサイバー空間の規制当局である中央網信弁公室である。AI生成コンテンツの表示義務規格(GB 45438-2025)もすでに施行されている。
- その規格の具体的な要件:高リスク操作への人間の介入や緊急停止といった要件が含まれると一部で報じられているが、本稿執筆時点で公式資料による確認はできていない。
- 多国間の受け皿と国連重視:中国外交部によれば、2026年7月16日、上海で世界人工智能合作組織(WAICO)の設立協定の署名式が開かれ、29か国が創設メンバーとなった。発表で名前が挙げられた署名国のうち、カザフスタン、ラオス、インドネシアは広島AIプロセスのフレンズグループにも参加している。9月28日には外交部報道官が、国連を主な場とする「全球人工智能治理体系」の構築を主張した。
第一のアプローチが「何を個別に管理・排除するか」の明確さで制御を図るのに対し、第二のアプローチは「どの規格に落とし込むか」の普遍性で制御を図る。この違いは、思想の内容そのものよりも、統治モデルを輸出する際のパッケージングの違いとして理解するのが妥当である(本稿の分析)。
7. 国際標準化という第三の制御点
呼称、統治手法に続く第三の制御点が国際標準化である。国際標準は採用が任意であるが、各国の規制や政府調達、企業間取引が参照することで、事実上の拘束力を持つ。規格の原案を書き、その成立に必要な票を集める力は、統治モデルを輸出するうえで最も息の長い手段となる。
7.1 要職の実態 ── 中国は「トップ」を占めているわけではない
一般に「中国は国際標準化の要職を押さえている」と語られることがあるが、2026年時点の実態はより複雑である。
- AI標準の中心であるISO/IEC JTC 1/SC 42は、議長・事務局とも米国である。主査を務める作業部会は中国が1つ(WG 5)、日本が2つ(WG 4、JWG 3)である(2025年版事業計画)。ISO全体の幹事国数も米国92、中国90と同水準だが、参加しているTCの数では中国が778と米国562を上回る(2025年3月)。
- 機関のトップでは、2026年4月時点でITU・ISO・IECの最高幹部に中国出身者はいない。2020年のWIPO事務局長選で中国の候補が敗れて以降、中国の重点は副長官級・中堅ポストや若手職員派遣制度(JPO)へ移っている(米議会の諮問機関USCC)。
中国の強みは、トップの数よりも、参加を途切れさせずに積み上げる力にある(第7.4節で「継続的参加能力」として定義する)。オランダのクリンゲンダール研究所は、中国が票をまとめて投じられるのに対し、EU諸国の票はばらつきやすいと分析している。
7.2 国家方針としての人的投入
この人的投入は、偶然の積み重ねではなく国家方針として文書化されている。2021年の「国家標準化発展綱要」(中共中央・国務院)は、国際ルールに精通した国際標準化人材を育成して国際標準化組織へ送り出すこと、企業や研究機関の国際的な標準化組織への参加を支援すること、「一帯一路」の参加国と標準の分野で連携することを掲げている。2025年7月の「人工智能全球治理行動計画」も、第8項でITU・ISO・IECを通じた安全・産業・倫理分野の技術標準策定の加速を明記した。
対照的に、米国の「重要・新興技術に関する国家標準戦略」(2023年)は、自国の標準化体制を「民間主導」と位置づけ、政府はそれを支援する立場にとどまる。米国やドイツでは、基幹企業の専門家が作業部会を主導し、国がこれを後押しする形で影響力を発揮してきた。違いは国の関与の有無ではなく、企業が主導し国が支えるか、国が主導し人材・規格・票を一体で動かすかという運用の形にある。
7.3 現場からの証言
筆者は2000年代初頭から、ISO/IEC JTC 1/SC 28(オフィス機器。印刷・画像関連を含む。国際幹事国は2002年から日本)で副国際幹事を務め、職務上、他のTC・SCの動向も俯瞰する立場にあった。当時の観察は次のとおりである。
国際標準の世界は長く米国・ドイツが優勢で、日本などが分野ごとに食い込む構図だった。主要国では基幹企業の専門家が多くの作業部会を主導し、自国に有利な標準づくりを進めていた。一方、ASEAN諸国など、国や産業からの支援が乏しい国の多くは会議に参加せず、投票にも加わらなかった。
そこへ中国が、しかも一つの作業部会に複数名で参加し始めた。中国でまだ開発が始まっていない分野の作業部会に複数名が参加することもあった。当初は学習目的と受け止めていたが、その後その分野で中国の開発が始まり、参加者が関係各国との根回しを重ねて存在感を増していった。
同様の傾向は、SC 28に限らず他のTC・SCでも見られた。
※ 以上は筆者の実務経験に基づく観察であり、個別の会議や人物を特定するものではない。参加者数の推移などの定量的な裏付けは今後の課題とする。
この証言が示すのは、開発より先に標準化の場に人を置くという順序である。技術の開発が始まる前から議論の場に席を確保し、開発の進展とともに提案と根回しで影響力を高める。投票に参加しない国が多い分野では、継続して出席し、票を取りまとめる国の影響力が相対的に大きくなる(本稿の推察)。
7.4 継続的参加能力 ── 本稿の中心概念
第7.3節の証言と公開資料を合わせると、中国の強みは人数そのものではなく、参加を途切れさせずに積み上げ、影響力へと転化していく人的・制度的な累積過程にあると考えられる。本稿はこれを「継続的参加能力」と呼ぶ。その過程は次のように整理できる。
一度会議に来る → 複数人で来る → 継続して参加する → 作業部会の役職を取る → 作業文書を書く → 他国の支持を集める → 自国の規格を国際規格に接続する
ただし、筆者の証言が直接示しているのは、この過程の前半(複数名での参加、継続的な出席、根回しによる存在感の拡大)である。後半(役職の獲得、作業文書の作成、自国規格の国際規格への接続)は、SC 42の主査の状況や中国の「国家標準化発展綱要」といった公開資料と整合する推論である。この累積過程は、当研究所の既刊指標の四段階にそのまま重なる。
| 既刊の段階 | 継続的参加能力の過程 | 中国の現状(本稿の評価) | 否定基準(本稿) |
| ① 思想的接触 | 会議に来る → 複数人で来る → 継続して参加する(開発前の分野を含む)【証言】 | 参加TC数で首位。筆者の証言とも整合し、該当すると評価 | 参加が単発または個人的な学習にとどまり、継続参加や提案が確認されない場合は該当しない |
| ② インフラの代替 | 作業部会の役職(主査・幹事)を取る【公開資料】 | ISO幹事国数は米国と同水準。AIのSC 42では主査1にとどまり、部分的に該当 | 役職数が参加規模に見合う水準にとどまり、特定分野への集中が見られない場合は該当しない |
| ③ 政策言語への翻訳 | 作業文書を書き、自国の規格を国際規格の原案に接続する【推論】 | AI分野では今後の検証対象(AIエージェント安全規格など) | 国際提案が自国の国内規格と独立に作成されたと説明できる場合は該当しない |
| ④ 政権への直接接触 | 他国の支持を集め、機関の要職に及ぶ【証言・公開資料】 | トップは2020年以降押し返されたが、副トップ・中堅ポストは拡大 | トップ・副トップの地位が単発で、継続的に確保されない場合は該当しない |
評価(本稿の推察):中国は④のトップ獲得で一度押し返されたものの、①と②を着実に積み上げており、AI分野では③が試される段階に入りつつある。継続的参加能力は、参加者数・作業文書の数・役職数の推移として測ることができ、今後の検証の軸となる。
7.5 AI分野への含意と反論
米国は国際標準化の場から退いてはいない。2025年7月の「AI行動計画」は「国際統治機関における中国の影響力に対抗する」という項目を立て、標準化機関での米国の地位を活用するとしている。ただし同じ計画は、「負担となる規制」や「行動規範」を促す国際的な枠組みには反対する立場を取る。
ただし、米国が安全基準づくりそのものから退いているわけではない。米国で手薄なのは公式の国際標準化の場であり、米国の先端AI企業は安全基準をその外側で作ろうとしている(7.6節)。その結果、中国は公式の国際標準化の場で安全・倫理の規格の空白を埋める余地を得ている。中国にとって、米国をこの場に引き込めれば成果となり、引き込めなくても「米国は国際的な安全規格の議論に加わらない」という構図を第三国に示す材料になる。どちらに転んでも得をする設計である(本稿の推察)。
一方、中国の技術取得の手法は、この戦略の制約にもなりうる。Anthropicは2026年2月と9月に、Alibaba・Moonshot AI・DeepSeekが同社モデルの出力を大量に引き出して自社モデルの学習に用いた(いわゆる蒸留)と公表し、OpenAIもDeepSeekについて同様の主張をしている。これらは企業側の主張であり係争中の論点であるが、技術取得の手法をめぐる疑念は、中国が国際標準化の場で「信頼できる規格の提案者」として振る舞ううえでの制約となる(本稿の推察)。ただし、第三国は技術の取得経緯よりも価格や入手しやすさで採用を判断する傾向があり、この制約が中国の戦略を無効にするとまでは言えない。
反論もある。国際標準は合意(コンセンサス)で決まり、採用も任意であるため、一国が不利な標準を押し付けることは難しく、中国による操作の証拠は限定的だとする分析がある(カーネギー国際平和財団、2023年)。中国の提案は量が多い一方で質が伴わない場合があるとの指摘もある。また、ロビー活動で支持を集めること自体は米国やEUも行う通常の外交である。本稿の論点は、ロビー活動の有無ではなく、国家の方針として人材・規格・票の取りまとめを一体で運用していることにある。
なお、ITUでは11月9〜27日にドーハで全権委員会議(PP-26)が開かれ、事務総局長などの役職選挙が行われる。11月の米中AI対話と同じ月であり、国際標準化をめぐる米中の動きを観察する好機となる。
7.6 企業の関与と国際標準の限界
米国の標準化体制は民間主導であるため、国際標準化における米国の存在感は、米国企業がどこで活動しているかによって決まる。この点で、米中の企業の関わり方は対照的である。
米国の先端AI企業は、公式の標準化の場への関与が薄い。オックスフォード大学AIガバナンス研究所の2025年の論文は、OpenAIなどの先端AI企業が「関与の伝統がなく、標準策定の過程にほぼ不在」だとする関係者の証言を紹介している。これらの企業は、国際標準に対しては策定者よりも認証を受ける側として関わっている(例えばAnthropicは2025年1月にAIマネジメントシステムの国際規格ISO/IEC 42001の認証を取得した)。そのうえで、各社は9月29日の自主規制合意によって、公式の標準化の場の外に独自の安全の枠組みを作り始めている。
※ The Information紙の報道によれば、Google・OpenAI・Anthropicは、米国の金融業界の自主規制機関(FINRA)をモデルに、公開前のモデル試験の基準づくりや外部監査人の認定を担う「Standards Authority for Frontier AI」の設立を計画している。本稿執筆時点で各社の公式発表は確認できていない。
中国のAI企業は、国家の標準化体制の一部として関与している。工業情報化部は2024年12月、Baidu・Alibaba・Tencent・Huaweiの幹部を含む41人のAI標準化技術委員会を設けた。AIエージェントの安全に関する強制国家規格は国営の中国移動などが起草し、業界団体と政府系研究機関が主導した「人工智能安全承諾」には2024年に17社が署名した。SC 42の最初の会合(2018年、北京)では、政府系の研究機関がTencent、SenseTime、iFlytekなどを含む大規模な代表団を取りまとめた。
9月29日の自主規制合意は、この「外側の基準づくり」を具体化したものである。能力の監視も外部監査も、署名企業と、企業が選ぶ米国の監査人と、各社の取締役会の間で完結しており、日本を含む第三国が監査の結果を知り、評価に関与する回路はない。署名企業どうしが安全基準を定めるという構造は、将来の法制化や政府調達の条件と結びつけば、後発企業にとっての参入障壁にもなりうる(本稿の推察)。
国際標準が先端AIを扱いきれない理由は、次の四点に整理できる。
- 営業秘密:先端AIの競争力の中核は、モデルの重み、学習データ、学習手法といった非公開の営業秘密にある。ITU・ISO・IECの共通特許方針が求めるのは関連特許の存在の申告とライセンス条件の宣言であり、技術内容の公開ではない。しかし、詳細な技術仕様を標準化しようとすれば、営業秘密の開示に近づく。
- 安全保障と輸出管理:米国の先端AI企業は国防と深く結びついている(2025年7月、国防総省はAnthropic・Google・OpenAI・xAIとそれぞれ最大2億ドルの契約を結んだ)。また米国の輸出管理規則は、規制対象企業も参加する標準化の場での技術共有を、規制の緩い技術で、かつ公開予定の標準に向けた場合に限って認めている。機微な技術を標準化の場に持ち込むことはできない。
- 速度:ISO規格の策定には18〜36か月を要し、先端AIの進歩に追いつけない。
- 動機の弱さ:AIは通信のように相互接続のための標準を必要とせず、標準がなくても製品は売れる。
この結果、国際標準が扱えるのは先端AIの外枠(管理体制・用語・品質)にとどまり、中核(能力評価・安全性試験)は企業と国家の手に残る。AIのルールづくりは、遅く手続き型の「公式の国際標準」の層と、速く企業主導の「先端AIの安全基準」の層に分かれつつある(本稿の推察)。
ただし、中国企業も「軍民融合」の方針のもとで国家・軍と結びついており、SenseTimeやiFlytekは2019年に米国の輸出規制対象に指定されている。それでも中国企業は国際標準化に積極的に参加してきた。違いを生んでいるのは防衛との関係ではなく参加の損得勘定である。米国企業にとっては、営業秘密の流出や輸出規制違反の危険に比べて参加の利益が小さい。中国企業にとっては、国家が参加の費用を負い、自国の規格を国際的に広めて第三国市場を得られるため、参加が合理的となる。問われるのは、第三国がどちらの層のルールを参照するかである。米国企業の枠組みは技術的に先行していても第三国が関与する回路を持たず、中国は一国一票の場で第三国との接点を広げている(本稿の推察)。
8. 標準戦争はなぜサイバーセキュリティの問題なのか
標準は、ふつうは製品の互換性や品質をそろえるためのものと考えられている。しかしAIの安全に関する標準は、それとは性質が異なる。安全の標準を決めることは、次の三つを決めることだからである。
- どの脅威を検査の対象にするか:標準が「安全」をどう定義するかによって、何が試験されるかが決まる。たとえば、AIが意図しない形で他のシステムに侵入することを検査の対象に含めるかどうかは、定義しだいである。定義に入らない脅威は、検査されない。
- どのAIを重要なシステムに入れてよいか:認証は、政府や重要インフラが調達できるAIを選別する関門になる。認証の基準を決める者は、どのAIが社会の基盤に入るかを左右する。
- 誰が脆弱性の情報を見られるか:監査を行う者は、AIの弱点、事故の記録、社内評価の結果に触れる。誰が監査できるかは、誰が脆弱性と脅威の情報を持つかと同じである。
検査の範囲、重要システムへの関門、脆弱性情報へのアクセスは、いずれもサイバーセキュリティの中核をなす事柄である。したがって、AIの安全の標準をめぐる競争は、産業規格の競争であると同時に、サイバーセキュリティ上の決定権を誰が持つかをめぐる競争でもある(本稿の推察)。この三点のそれぞれについて、すでに次の事実が確認できる。
- 検査の対象:9月29日の米国の自主規制合意は、第一の層としてサイバーセキュリティと「モデルが意図しない形で技術システムに侵入・アクセスすること」の監視を掲げた。AIへのサイバー脅威と対策を扱う国際規格ISO/IEC 27090も、ISO/IECのサイバーセキュリティ担当の委員会(JTC 1/SC 27)で発行の最終段階にある(2026年8月時点)。何を脅威とみなすかは、企業の合意と国際規格の両方で、いま定められつつある。
- 重要システムへの関門:中国はAIエージェントの安全について、任意ではなく強制の国家規格を立項した。主管はサイバー空間の規制当局である中央網信弁公室である。米国では、国防総省が特定企業のAIを政府調達から排除している。
- 脆弱性情報へのアクセス:米国の合意では、監視と監査の結果は署名企業と、企業が選ぶ監査人の間で共有される。米中は9月25日の首脳会談で、AI(米側呼称ではSI)事案の二国間連絡チャネルの設置で一致した。AIの事故や脅威の情報を誰と共有するかは、すでに国家間で取り決められ始めている。
次の表は、AIの安全をめぐる各要素について、米中の動き、国際標準、日本の論点を整理したものである。
| 要素 | 米国の動き | 中国の動き | 国際標準・日本の論点 |
| AIエージェントの安全要件 | 合意で、意図しないシステムへの侵入の防止を社内監視の対象とする | 強制国家規格を立項(具体的な要件は公式資料で未確認) | 日本はフィジカルAIの安全要件を先に国際提案する(提言④) |
| モデル評価 | 企業の社内評価と外部評価者による評価 | AI標準化技術委員会(2024年設置)が評価・試験の規格を所管 | 能力評価は国際標準の対象外にとどまる。AISIの評価を橋渡しに(提言②) |
| 外部監査 | 合意の第3層(独立した外部監査人) | 国家規格への適合確認が中心(本稿の推察) | 監査を日米で相互に認める仕組みを求める(提言②) |
| AIインシデント報告 | 米中でAI事案の連絡チャネル設置に合意 | 同左 | 日本は米中の連絡チャネルの外にある。日米間での共有の枠組みが必要 |
| 脅威情報の共有 | 監視・監査の結果は企業内で閉じる | 規制当局(中央網信弁公室)が主管 | 調達条件として監査結果の要約をAISIへ提供させる(提言②) |
| サプライチェーン | 国防総省のサプライチェーンリスク指定、輸出管理 | 重要鉱物の供給が交渉材料となる(米側ファクトシート) | 日本はPax Silicaの署名国 |
| 政府調達 | 指定企業を政府調達から排除 | ― | 先端モデル調達時の条件を見直す(提言②) |
| 認証 | 企業主導の認証の枠組みが構想段階(報道) | 強制国家規格への適合 | ISO/IEC 42001(AIの管理体制)の認証。認証の相互承認が論点 |
日本の重要インフラや行政が使うAIについて、どの脅威が検査され、どのAIが使ってよいとされ、誰が脆弱性の情報を持つのか。現状では、その決定の多くが日本の外で行われている。これは当研究所の既刊が示した「四層のAI主権」のうち、重み・運用層の主権の問題でもある(本稿の推察)。第10節の提言は、これらの決定に日本が関与するための手段として位置づけられる。
9. 検証指標と反証条件
本稿の主要な仮説を、今後の事実で検証するための指標を示す(H1・H3を含む全体は付録B。記者向けの要約は冒頭の「5つのシグナル」)。
| 仮説 | 支持する指標 | 反証する指標 |
| H2 中国は用語の採用を留保している | 11月の対話後も中国側公文書が「人工智能」「人工智能政府間対話」を使い続ける | 中国側公文書で「超級智能」が明示的に採用される |
| H4 改称は主に国内政治向けである(代替説明) | SIの使用が国内の世論対策の文脈に限られ、対外交渉で主張されない | 米国が同盟国や多国間の場でもSIの採用を求める |
| H5a 中国は国内のAI規格を国際標準化の場へ持ち込もうとしている | AIエージェント安全規格に対応する新規作業項目が、中国からISO/IEC(SC 42・SC 27)やITU-Tに提案される | 12か月以内に国際提案が確認されない |
| H5b 米中は二国間協議に標準化を議題として組み込む | 11月の米中AI対話の成果文書に、技術標準や評価手法への言及が入る | 対話が事案連絡の実務にとどまる |
| H6 第三国の政府調達・規制文書は、米国企業の自主基準よりも公式の国際標準を参照する | ASEANなどの政府調達要件やAI規制文書が、ISO/IEC規格を引用する | 政府調達要件や規制文書が、米国企業の自主規制機関の基準・認証を直接引用する |
10. 日本への政策提言(案)
日本は米中二国間の意思決定の当事者ではない。一方、多国間の標準化とルール形成の場では、参加できる資産をすでに持っている。AIの国際標準化の中心であるSC 42では、日本は二つの作業部会(WG 4、JWG 3)で主査を務めており、中国(WG 5のみ)より多い(2025年版事業計画)。日本が主導する広島AIプロセスのフレンズグループには、総務省によれば84か国・地域(2026年8月時点)が参加し、ASEAN9か国やインド、ケニア、ナイジェリアなどのグローバルサウス諸国を含む。さらに第Ⅱ期「人工知能基本計画」(2026年7月14日閣議決定)は、「開かれた『AI主権』」の確立、JTC 1におけるAI標準化への参画、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の強化と高性能AIの評価、同志国やグローバルサウスとの連携を掲げている。提言は、これらの既存の資産から組み立て、優先順位の高い順に示す。
提言① 継続的参加能力に投資する ── 国際標準化の人材を国が支える
第7.4節で示したとおり、国際標準化における影響力は、一時的な派遣ではなく、参加を途切れさせずに積み上げる継続的参加能力から生まれる。日本も同じ能力を、国の支えによって育てる必要がある。企業から派遣される専門家の渡航費・人件費の補助、次の主査・議長候補の計画的な育成、元国際幹事などの経験者による指導役の制度を整える。2025年6月の「新たな国際標準戦略」は人材育成の必要性を掲げるが、概要を見る限り数値目標は示されていない。参加者数・作業文書の数・役職の獲得数について、数値目標を設けるべきである。
提言② AISIを、評価・監査・標準化の橋渡し役にする ── 日本が交渉すべき制度設計案
米国の先端AI企業や米国の評価機関が作る試験・評価の基準を、ISOで扱える文書に翻訳してSC 42に提案する役割をAISIに担わせる。米国企業が入りにくい公式の国際標準化の場と、米国の先端の知見を、日本がつなぐ。基本計画が掲げる「高性能AIの評価」を、この橋渡しの役割に結びつける。
本提言は、既存の制度でただちに実現できるものではなく、日本が交渉すべき制度設計案である。日本政府が米国企業の監査結果を取得する法的な根拠は現在なく、実現には段階を踏む必要がある。
- 短期(実現可能性が比較的高い):日本政府が先端モデルを調達する際、顧客として、調達契約の条件の中で、9月29日の合意に基づく監査結果の要約をAISIへ提供するよう求める。規制による強制ではなく、契約上の合意として扱う。
- 中期(交渉課題):AISIの評価を米国側の外部監査として認める相互承認を、日米の協議で求める。米国政府・企業・監査の仕組みとの交渉が必要であり、日本の開発企業が米国市場に出る際の障壁を下げる効果もある。
いずれも米国の自主規制を批判するものではない。「同盟国が関与できる回路がない」という事実に基づき、その回路づくりを求めるものである。
この橋渡しを進めるうえで、働きかける相手が明確になった。米国は10月4日、AI政策の調整を担う「Super Intelligence Force」を設け、情報機関を統括する国家情報長官を責任者とした。報道によれば、この組織は120日以内、発表の日から数えれば2027年2月初めまでに、AIのリスクと機会を評価し、連邦政府の役割を提言する報告書をまとめる。日本政府は、この報告書がまとまる前に、同組織との間に情報共有と連携の回路を設けるよう働きかけるべきである。具体的には、先端モデルの監査結果や脅威に関する情報を同盟国と共有する仕組みを、報告書の検討事項に加えるよう求める。
あわせて、日本側の窓口を整理する必要がある。日本では、AIの安全性の評価はAISIが、情報の集約と分析は2026年7月31日に発足した国家情報局が担っている。米国側の窓口が安全保障の系統に置かれたことを踏まえ、どの機関が窓口となり、AISIと国家情報局がどう連携するかを定めておくべきである。なお、同組織が同盟国との連携を任務に含むかどうかは、現時点で報じられていない。
提言③ 第三国の標準化への参加を支える ── フレンズグループを受け皿に
第7.3節の証言が示すとおり、国際標準化の場では、国や産業の支援が乏しい国の多くが参加せず、投票もしてこなかった。この空白に中国は複数名で入り込み、根回しを重ねてきた。フレンズグループに参加するASEANなどの国々が、SC 42で投票権を持つ正式メンバー(Pメンバー)となり専門家を送り出せるよう、日本が研修と渡航費を支援する。成果はSC 42のPメンバーとなったASEAN諸国の数で測る。
なお、一帯一路への署名を理由に対象国を除外することは適切でない。確認できたフレンズグループ69か国のうち47か国(約68%)が一帯一路の協力覚書に署名しており、ASEAN9か国はすべて署名国である。これらの国はインフラ資金を得るために一帯一路に署名しつつ、フレンズグループにも加わる、いわば両方に保険をかけている国であり、その取り込みこそが本提言の目的である。情報流出への備えは、国の単位での除外ではなく、扱う情報の段階を分けることで行う。
| 段階 | 対象国 | 扱う内容 |
| 開放 | フレンズグループ全体 | 標準化への参加方法の研修、渡航費の支援、公開を前提とする規格案の作成 |
| 限定 | 同志国(Pax Silica参加国など) | AIの評価手法、安全保障に関わる試験の知見、未公開の技術情報 |
限定段階への参加は、一帯一路への署名ではなく、AI分野での具体的な結びつきで個別に判断する。指標は、中国主導の世界人工智能合作組織(WAICO)への加盟、通信網や監視システムの中核における中国製機器への依存、国際標準化の場での中国との投票の一致度である。
提言④ 得意分野で先に提案する ── フィジカルAIとAIエージェントの安全
製造業とロボットは日本の強みである。中国のAIエージェント安全の国家規格が国際提案される前に、日本がフィジカルAIの安全要件を新規作業項目として提案する。第9節の検証指標H5aに対する先手となる。その際、「緊急停止」「人間の介入」といった要件は、特定国の規格をそのまま取り入れるのではなく、日本の制度的文脈に即して定義する。
提言⑤ 11月の機会を使い、用語の対応を整える
ITU全権委員会議(11月9〜27日、ドーハ)の役職選挙に向けて、日本の投票方針を戦略的に定める。11月の米中AI対話の成果物については、日米の経路で説明を受ける枠組みと、日本が第三者として検証できる公開情報の範囲を確保する。あわせて、米国の連邦文書が「SI」に切り替わるなかで、日本政府の文書・訳語での「AI」との対応を整理し、日米文書間の用語の不一致が政策上の解釈の違いを生まないようにする。加えて、米国のSuper Intelligence Forceが報告書をまとめる2027年2月初めまでを、日米の協議の期限として意識する。
11. 結論と限界
「AI」を「SI」と呼び替える動きは、その動機が国内向けであったとしても、二国間文書に入り込んだ。それが統治の対象の定義に影響するかどうかは、今後の外交文書・標準・規制での定着によって検証される。米中両国はAIを人間の管理下に置く必要性を口にしながら、その制度化では、個別のリスクを行政措置・調達・自主規制で管理する方向と、統治要件を規格・国際標準・多国間枠組みに組み込む方向という、異なる重心を持つ。そして10月5日時点で、中国は米国の用語を採用していない。さらに、呼称や統治手法の背後では、国際標準化の場への人的投入という、より息の長い競争が続いている。その競争は、検査する脅威の範囲、重要なシステムに入れてよいAI、脆弱性の情報を見られる者を誰が決めるかという、サイバーセキュリティ上の決定権に及ぶ。呼称、標準、認証と監査は、いずれもAIについて「定義する権限」を誰が持つかという一つの問いにつながっている。日本はこの権限の配分に関与できる資産を持っており、それを使うかどうかが、日本のAI主権の実質を左右する。本稿はこの構図を、当研究所の既刊指標を転用して示したが、以下の限界がある。
- 中国側一次資料のうち、外交部の9月26日・28日の発表は中国語原文で確認したが、新華社による成果の全項目、および強制国家規格の要件の詳細は原文で確認できていない。
- 「Xi主席も気に入っている」という発言は、Trump大統領による伝聞であり、独立した裏付けを欠く。
- 第7節の現場の証言は筆者の実務経験(2000年代初頭以降、主にSC 28)に基づく観察であり、中国からの参加者数の推移などの定量データによる裏付けは行っていない。SC 42の事業計画の年次比較などによる検証が今後の課題である。
- 要職や幹事国の数は、出典と調査時点によって数値に幅がある。
- フレンズグループは84か国・地域とされるが、本稿で名簿を確認できたのは69か国であり、一帯一路との重複の割合はこの69か国に基づく。
- 中国企業による蒸留の告発、および米国先端AI企業による自主規制機関の設立計画は、いずれも企業の主張または報道に基づくものである。
- 過去の米中首脳会談における発表の非対称性は、本稿では個別に検証していない。
付録
付録A 米中首脳会談の発表の比較(全体)
9月25日の会談をめぐる両国の公式発表を比較すると、一致点は「AIのリスクと利益に関する対話(11月予定)」と「AI関連事案の連絡チャネル」の2点である。食い違いは次のとおりである。
| 論点 | 米側(ホワイトハウス) | 中国側(外交部・新華社) |
| 用語 | 「両首脳がSIという語の使用で合意」と記載 | 「人工智能」を使用。「超級智能」の語は現れない |
| 対話の名称 | U.S.-China Super Intelligence (SI) Dialogue | 人工智能政府間対話 |
| レアアース | 供給懸念への対応を継続すると記載 | 王毅外相の成果説明では主要項目として挙げられていない |
| 軍事 | ファクトシートに記載なし | 両軍の危機連絡強化に関する覚書の署名に言及 |
9月29日の「Xi主席も気に入っている」という発言は、Trump大統領による伝聞であり、本稿執筆時点で中国側からの確認は得られていない。米側が相手の同意を中国側の発表より強く記す傾向は、過去の首脳会談でも指摘されてきたが、本稿ではその個別検証は行っていない。
付録B 検証指標の全体(H1〜H6)
| 仮説 | 支持する指標 | 反証する指標 |
| H1 米国は用語を対外文書にも定着させようとしている (国内の大統領令は9月29日署名済み) | 11月の対話の米側文書・共同文書でSIが使われ、他の二国間・多国間文書にもSIの使用を求める | 米側が対外文書でAIとの併用を容認する、またはSIが国内向け文書にとどまる |
| H2 中国は用語の採用を留保している | 11月の対話後も中国側公文書が「人工智能」「人工智能政府間対話」を使い続ける | 中国側公文書で「超級智能」が明示的に採用される |
| H3 米中は統治手法(個別排除 対 規格)で収斂しない | 11月の対話が事案連絡の実務にとどまる | 共通の技術基準や検証手続きに関する共同文書が出る |
| H4 改称は主に国内政治向けである(代替説明) | SIの使用が国内の世論対策の文脈に限られ、対外交渉で主張されない | 米国が同盟国や多国間の場でもSIの採用を求める |
| H5a 中国は国内のAI規格を国際標準化の場へ持ち込もうとしている | AIエージェント安全規格に対応する新規作業項目が、中国からISO/IEC(SC 42・SC 27)やITU-Tに提案される | 12か月以内に国際提案が確認されない |
| H5b 米中は二国間協議に標準化を議題として組み込む | 11月の米中AI対話の成果文書に、技術標準や評価手法への言及が入る | 対話が事案連絡の実務にとどまる |
| H6 第三国の政府調達・規制文書は、米国企業の自主基準よりも公式の国際標準を参照する | ASEANなどの政府調達要件やAI規制文書が、ISO/IEC規格を引用する | 政府調達要件や規制文書が、米国企業の自主規制機関の基準・認証を直接引用する |
付録C 米中の統治手段の詳細
米国
- 輸出管理による個別の遮断:Anthropic社のFable 5・Mythos 5は、米商務省の輸出管理に対応するため6月12日に提供停止となり、規制が6月30日に解除されたのを受けて7月1日に提供が再開された。制度化された事前規制というより、個別の危機対応に近い。
- 国防総省の「サプライチェーンリスク」指定:特定企業のモデルを政府調達から個別に排除する仕組みである。9月25日、D.C.巡回区控訴裁は2対1でこの指定を支持した。多数意見は、利用制限の組み込まれたAIモデルが軍事作戦を妨げうるという国防長官の懸念に合理性を認めた。なお、別の法的根拠に基づく並行の指定は、サンフランシスコの連邦地裁で取り消されている。
- 企業の自主規制合意:9月29日、主要AI企業の経営者らが自主規制を約する合意(報道では「morally binding」)に署名した。Trump大統領は、規制は「司法省やFBIなどによって自動的にある」と述べ、開発を制限する「ガードレール」には与しない姿勢を示した。一般的な規制ルールを設けず、問題が起きれば法執行で対応するという考え方が表れている。
- 有志連合(Pax Silica):国務省が2025年12月に立ち上げた、半導体・AI・重要鉱物のサプライチェーン確保のための枠組みで、日本も当初からの署名国である。普遍的な国連の場よりも、価値を共有する国々との連合を優先している。
中国
- AIエージェントの強制国家規格:国家標準委は6月27日付の通知で、「智能体応用安全基本要求」を含む29項目の強制性国家標準の策定計画を示した。新華社(7月28日)は、これを智能体の安全に関する初の強制性国家標準の立項として報じ、主管を中央網信弁公室、起草を中国移動などとしている。高リスク操作への人間の介入や緊急停止といった具体的な要件は一部報道で言及されているが、本稿では公式資料での確認に至っていない。
- 既存の強制規格:AI生成コンテンツの表示を義務づける強制国家規格GB 45438-2025がすでに施行されており、規格による事前の義務づけは実績のある手法である。
- 多国間の受け皿:2026年7月、上海に本部を置く世界人工智能合作組織(WAICO)の設立協定に29か国が署名した。
- 国連を主な場とする立場:9月28日、外交部報道官は「国連の主要な役割を堅持し、公正で合理的な全球人工智能治理体系を構築すべき」と述べた。米国が国連での統治枠組みに距離を置くのとは対照的である。
付録D 既刊指標の読み替え(用語・統治モデルの輸出)
| 既刊の段階 | 本稿での読み替え | 否定基準(本稿) |
| ① 思想的接触 | 相手国の首脳・当局が、用語や枠組みに接し言及する | 外交儀礼上の言及にとどまり、相手国の独自文書で使われない場合は該当しない |
| ② インフラの代替 | 相手国が技術基準・規格などの制度インフラを採用する | 相手国の規格が、輸出側と独立に国内の既存計画から説明できる場合は該当しない |
| ③ 政策言語への翻訳 | 用語・枠組みが相手国の政策文書・法令に記載される | 共同文書への記載のみで、次回以降の相手国の独自公文書で再使用されない場合は該当しない |
| ④ 政権への直接接触 | 常設の二国間対話・連絡チャネルが設置される | 会合が単発で、一定期間(既刊にならい目安12か月)継続的な接触が確認されない場合は該当しない |
参考資料
※ 中国語資料の題名は、検索できるよう原文(簡体字)のまま記載した。
- The White House, “Inaugurating The Era Of Super Intelligence”(大統領令、2026年9月29日) https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2026/09/inaugurating-the-era-of-super-intelligence/
- The White House, “Fact Sheet: President Donald J. Trump Advances a Fair and Reciprocal Relationship with China while Hosting Historic State Visit”(2026年9月25日) https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2026/09/fact-sheet-president-donald-j-trump-advances-a-fair-and-reciprocal-relationship-with-china-while-hosting-historic-state-visit/
- The White House, “President Trump at the United Nations”(2026年9月22日) https://www.whitehouse.gov/releases/2026/09/president-trump-at-the-united-nations-while-others-have-talked-i-have-acted/
- 中国外交部「开辟大国相处正确之道 书写中美关系历史新篇」(王毅外相、2026年9月26日) https://www.fmprc.gov.cn/zyxw/202609/t20260926_12031645.shtml
- 中国外交部「外交部发言人就人工智能问题答记者问」(2026年9月26日) https://br.china-embassy.gov.cn/fyrth/202609/t20260926_12031638.htm
- 中国新聞網「外交部:愿同美方通过人工智能政府间对话等渠道保持沟通交流」(2026年9月28日) https://www.chinanews.com.cn/gn/2026/09-28/10704901.shtml
- 21世紀経済報道「中美人工智能对话机制更多体现美方思路?中方回应」(2026年9月28日) https://www.21jingji.com/article/20260928/herald/5590c615906d34cb50364a547324bfac.html
- 星島日報「中美峰會成果出爐」(2026年9月26日) https://www.singtaousa.com/2026/09/26/news/usa/china-and-the-us-agree-to-set-up-a-new-ai-safety-channel-and-to-keep-talking-on-trade-military/
- Axios, “U.S. and China agree to ‘super intelligence’ dialogue amid AI tensions”(2026年9月26日) https://www.axios.com/2026/09/26/us-china-ai-si-deal
- The Hill, “Trump polls followers to rename AI”(2026年9月) https://thehill.com/homenews/administration/6099834-trump-proposes-new-a-i-names/
- PBS NewsHour, “Trump announces accord signed by top AI companies to self-police development”(2026年9月29日) https://www.pbs.org/newshour/politics/watch-trump-announces-accord-signed-by-top-ai-companies-to-self-police-development
- The Daily Signal, “Trump Says He’ll Sign Order Renaming Artificial Intelligence ‘Super Intelligence'”(2026年9月29日) https://www.dailysignal.com/2026/09/29/trump-says-hell-sign-order-renaming-artificial-intelligence-superintelligence/
- CNBC, “Trump tries to rename AI ‘super intelligence’ as polls show…”(2026年9月29日) https://www.cnbc.com/2026/09/29/trump-ai-super-intelligence.html
- CBS News, “Trump vows to form “AI Force,” says he won’t allow slowdown of AI development”(2026年9月19日) https://www.cbsnews.com/news/trump-vows-ai-force-czar-development
- ITmedia NEWS「トランプ大統領、「Super Intelligence Force」創設を発表 国家情報長官やFTC委員長らが主導」(2026年10月5日) https://www.itmedia.co.jp/news/article/2610/05/2000001990/
- ニューズウィーク日本版(ロイター)「トランプ氏、政権のAI責任者にクレイトン国家情報長官を任命」(2026年10月5日) https://www.newsweekjapan.jp/articles/-/335878
- SiliconANGLE, “Trump launches Super Intelligence Force with Jay Clayton as AI czar”(2026年10月4日) https://siliconangle.com/2026/10/04/trump-launches-super-intelligence-force-with-jay-clayton-as-ai-czar/
- 秋田魁新報「「国家情報局」が発足 スパイ防止法制検討」(2026年7月31日) https://www.sakigake.jp/news/article/20260731CO0017/
- Military Times, “US appeals court upholds Pentagon’s blacklisting of Anthropic”(2026年9月25日) https://www.militarytimes.com/news/pentagon-congress/2026/09/25/us-appeals-court-upholds-pentagons-blacklisting-of-anthropic/
- Anthropic, Fable 5・Mythos 5の提供停止・再開に関する声明(2026年) https://www.anthropic.com/news/fable-mythos-access
- U.S. Department of State, “Pax Silica” https://www.state.gov/pax-silica
- 国家標準化管理委員会「关于下达《智能体应用安全基本要求》等29项强制性国家标准……的通知」(2026年6月27日) https://www.sac.gov.cn/xw/tzgg/art/2026/art_f8fcf2b94e5e4927a1e75ba0f02a7193.html
- 新華網「全球首部智能体安全强制性国家标准正式立项」(2026年7月28日) https://www.news.cn/tech/20260728/8ebf5083cf0e487287f894fb31e123f5/c.html
- CGTN, “29 countries sign agreement on establishing WAICO”(2026年7月17日) https://newsaf.cgtn.com/news/2026-07-17/29-countries-sign-agreement-on-establishing-WAICO-1OPKUEx6JPi/p.html
- ISO/IEC JTC 1/SC 42, Business Plan 2025 https://assets.iec.ch/further_informations/21538/ISO-IEC%20JTC%201_N17692_SC%2042%20Business%20Plan%202025.pdf
- ISO, ISO/IEC JTC 1/SC 28 – Office equipment https://www.iso.org/committee/45314.html
- Clingendael Institute, “China’s Rise as a Standards Power”(2025年) https://www.clingendael.org/pub/2025/standardisation-with-chinese-characteristics/3-chinas-rise-as-a-standards-power-the-basis-of-long-term-dominance/
- Carnegie Endowment, “What Washington Gets Wrong About China and Technical Standards”(2023年) https://carnegieendowment.org/research/2023/02/what-washington-gets-wrong-about-china-and-technical-standards?lang=en
- U.S.-China Economic and Security Review Commission, “PRC Representation in International Organizations”(2026年4月) https://www.uscc.gov/sites/default/files/2026-04/PRC_Representation_in_International_Organizations_April2026.pdf
- 中共中央・国務院「国家标准化发展纲要」(2021年) https://www.ndrc.gov.cn/fggz/fzzlgh/gjjzxgh/202112/t20211201_1306575.html
- 中国外交部「人工智能全球治理行动计划(全文)」(2025年7月) https://www.mfa.gov.cn/zyxw/202507/t20250726_11677803.shtml
- The White House, “Winning the Race: America’s AI Action Plan”(2025年7月) https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2025/07/Americas-AI-Action-Plan.pdf
- ANSI, “U.S. Government Releases National Standards Strategy for Critical and Emerging Technology”(2023年5月) https://www.ansi.org/standards-news/all-news/2023/05/05-05-23-us-standards-strategy-for-cet-released
- South China Morning Post, “Zhang Xiaogang, first Chinese head of ISO” https://www.scmp.com/news/china/article/1708816/zhang-xiaogang-first-chinese-head-iso-vows-diverse-approach
- swissinfo.ch, “Singaporean defeats Chinese candidate to head WIPO”(2020年3月) https://www.swissinfo.ch/eng/singaporean-defeats-chinese-candidate-to-head-wipo/45597478
- Roberts & Ziosi, “Can we standardise the frontier of AI?”(Oxford AIGI、2025年) https://aigi.ox.ac.uk/wp-content/uploads/2025/06/ssrn-5271446.pdf
- Washington Examiner, “READ IN FULL: White House Accord on Super Intelligence”(2026年9月) https://www.washingtonexaminer.com/news/white-house/4747747/full-trump-white-house-accord-ai-super-intelligence/
- Nextgov, “White House unveils ‘super intelligence’ executive order and industry accord”(2026年9月) https://www.nextgov.com/artificial-intelligence/2026/09/white-house-unveils-super-intelligence-executive-order-and-industry-accord/416325/
- The Next Web, “Google, OpenAI, Anthropic plan a Standards Authority for Frontier AI”(2026年9月28日) https://thenextweb.com/news/standards-authority-frontier-ai-google-openai-anthropic
- South China Morning Post, “Baidu, Alibaba, Tencent executives among Big Tech members on new China AI standards committee”(2024年12月) https://www.scmp.com/tech/big-tech/article/3290745/baidu-alibaba-tencent-executives-among-big-tech-members-new-china-ai-standards-committee
- 大洋網「首批17家企业签署《人工智能安全承诺》」(2024年) https://news.dayoo.com/finance/202412/24/171077_54765701.htm
- New America, “Chinese Interests Take a Big Seat at the AI Governance Table”(2018年) https://www.newamerica.org/insights/chinese-interests-take-big-seat-ai-governance-table/
- ITU, “Common Patent Policy for ITU-T/ITU-R/ISO/IEC” https://www.itu.int/en/ITU-T/ipr/Pages/policy.aspx
- Mayer Brown, “BIS Clarifies License Requirements for Activity at International Standards-Setting Bodies”(2022年) https://www.mayerbrown.com/en/insights/publications/2022/10/bis-clarifies-license-requirements-for-activity-at-international-standardssetting-bodies
- CNBC, “Anthropic, Google, OpenAI and xAI granted up to $200 million from DoD”(2025年7月) https://www.cnbc.com/2025/07/14/anthropic-google-openai-xai-granted-up-to-200-million-from-dod.html
- CNBC, “China’s surveillance firms defend themselves after US blacklisting”(2019年) https://www.cnbc.com/2019/10/08/china-surveillance-firms-defend-themselves-after-us-blacklisting.html
- TechCrunch, “Anthropic details distillation campaigns from Alibaba, Moonshot AI and DeepSeek”(2026年9月10日) https://techcrunch.com/2026/09/10/anthropic-details-distillation-campaigns-from-alibaba-moonshot-ai-and-deepseek/
- 内閣府「人工知能基本計画(第Ⅱ期)」(2026年7月14日閣議決定) https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/aiplan_20260714.pdf
- 総務省「広島AIプロセス フレンズグループ」 https://www.soumu.go.jp/hiroshimaaiprocess/en/supporters.html
- 日本規格協会「新たな国際標準戦略を読み解く ~概要編~」 https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0620/?id=1481
- Green Finance & Development Center, “Countries of the Belt and Road Initiative” https://greenfdc.org/countries-of-the-belt-and-road-initiative-bri/
- 中国外交部「成立世界人工智能合作组织协定签署仪式在上海举行」(2026年7月16日) https://www.mfa.gov.cn/wjbzhd/202607/t20260716_11984399.shtml
- ISO, “ISO/IEC 27090 Cybersecurity — Artificial Intelligence — Addressing security threats and compromises to artificial intelligence systems” https://www.iso.org/standard/56581.html
- 一般財団法人日本危機管理研究所「四段階指標で読む、思想輸出のリスク」(2026年6月28日) https://inst-ds.org/cyber-security/1745/
用語集
SI(Super Intelligence/超知能)
米国政府が2026年9月29日の大統領令で、行政各省庁の公式文書や対外発信(法令を除く)において「AI」に代えて用いると定めた呼称。「超知能(superintelligence)」という語は、本来AI安全性の議論で「人間の知的能力を広く上回る将来のAI」を指す概念として使われてきたもので、現在のAI全般を指す呼称とした点が今回の新しさである。
Super Intelligence Force(SIF)
Trump大統領が2026年10月4日に創設を発表した、AI政策を調整する組織。国家情報長官が率い、大統領と首席補佐官に報告する。120日以内に、AIのリスクと機会、連邦政府の役割についての報告書をまとめると報じられている。
思想輸出進行度指標(Ideological Infiltration Index)
当研究所が2026年6月に提示した、思想ネットワークの国境を越えた浸透を四段階で診断する枠組み。
否定基準
指標の各段階の判定基準と対になり、「該当しない条件」を示すことで反証可能性を確保する基準。
サプライチェーンリスク指定
米国防総省が、安全保障上の懸念がある企業の製品を政府調達から排除するために行う指定。
Pax Silica
米国務省が2025年12月に立ち上げた、半導体・AI・重要鉱物の供給網確保に向けた同志国の枠組み。日本も署名国。
強制性国家標準
中国で法的な拘束力を持つ国家規格(GB)。任意の推奨規格(GB/T)と区別される。
WAICO(世界人工智能合作組織)
2026年7月に上海を本部として設立された、中国主導のAI協力の国際機関。設立時に29か国が署名した。
ISO/IEC JTC 1
国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)が、情報技術分野の国際標準化のために共同で設置した合同技術委員会。
SC 42
JTC 1の下でAIの国際標準化を担う分科委員会。2017年に設置された。
幹事国/国際幹事
専門委員会(TC)や分科委員会(SC)の運営事務を担う国とその担当者。副国際幹事は国際幹事を補佐する。
継続的参加能力
本稿の中心概念。国際標準化の場への参加を途切れさせずに積み上げ、役職・作業文書・他国の支持・自国規格の国際化へと転化していく人的・制度的な累積過程を指す。
主査(コンビーナ)
作業部会(WG)の議事を取りまとめ、規格案の作成を主導する役職。
中央網信弁公室
中国共産党中央サイバーセキュリティ・情報化委員会の事務機関。サイバー空間の規制を担い、AIエージェント安全の強制国家規格を主管する。
ISO/IEC 27090
AIシステムに対するサイバー脅威と、その検知・緩和の方法を扱う国際規格。サイバーセキュリティ担当のJTC 1/SC 27が策定し、2026年8月時点で発行の最終段階にある。
Pメンバー
ISOの委員会で、投票の義務と権利を持って積極的に参加する国。情報の提供を受けるだけの国はOメンバーと呼ばれる。
ITU全権委員会議(PP)
国際電気通信連合(ITU)の最高意思決定機関。4年ごとに開かれ、事務総局長などの幹部を選挙で選ぶ。
蒸留(ディスティレーション)
他のAIモデルの出力を大量に収集し、それを用いて自社のモデルを学習させる手法。
Standards Authority for Frontier AI
Google・OpenAI・Anthropicが設立を計画していると2026年9月に報じられた、先端AIの自主規制機関。
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)
AIの安全性に関する評価手法や基準を研究する日本の機関。2024年に設置された。
広島AIプロセス
2023年のG7広島サミットを機に日本が主導して始めた、生成AIに関する国際的なルールづくりの枠組み。
フレンズグループ
広島AIプロセスの精神に賛同する国・地域による自発的な枠組み。2024年5月に発足し、2026年8月時点で84か国・地域が参加する。
人工知能基本計画
AI推進法に基づいて政府が定めるAI政策の基本計画。第Ⅱ期は2026年7月14日に閣議決定された。
関連記事
- 四段階指標で読む、思想輸出のリスク――アルゼンチンの実装と日本の現在地 2026年6月28日 https://inst-ds.org/cyber-security/1745/
- The Ideological Infiltration Index 2026年6月28日 https://inst-ds.org/cyber-security/2096/
- AI外交を進める日本に残された宿題──平井卓也氏が語った「セキュリティクリアランス」 2026年7月4日 https://inst-ds.org/ai/1820/
- 「実世界ネイティブAI」という賭け――日本はAIの主権を確立できるのか、新たな依存を生むのか 2026年7月22日 https://inst-ds.org/ai/2044/
- Four Layers of AI Sovereignty 2026年7月24日 https://inst-ds.org/cyber-security/2065/
- 四層フレームの破綻事例と対策|データセンター軍事攻撃の実例分析 2026年7月30日 https://inst-ds.org/cyber-security/2115/
※ 本稿の事実関係は2026年10月5日時点で確認できた公式文書と報道に基づく。本文中「本稿の推察」「本稿の分析」と記した箇所は筆者の解釈である。本文中の中国語の用語(「超級智能」「人工智能政府間対話」など)は、原文の簡体字を日本の漢字表記に改めて示した。
筆者:舩山美保 一般財団法人 日本危機管理研究所 理事
国際標準化、技術インテリジェンス、知的財産分析、地政学・危機管理を専門とする戦略アナリスト。キヤノン株式会社において国際標準・新技術分野の特許調査および戦略分析業務に従事。ISO/IEC JTC 1/SC 28(オフィス機器)副国際幹事として、国際規格策定および多国間交渉の調整を担い、国際標準化活動への貢献によりITSCJ国際標準化貢献賞を3回受賞。現在、中東アジア情報戦略研究所フェロー。公益社団法人 日本外国特派員協会(FCCJ)プロフェッショナル・アソシエイト会員。上智大学外国語学部卒業。青山学院大学大学院修了(国際政治経済学・哲学・心理学)。
本財団の執筆体制について
本財団の分析記事は、理事・主任研究員による一次資料調査に加え、実務家・研究者による寄稿論考(寄稿論考カテゴリ)を通じて、複数の専門的視点を反映する体制を採っています。寄稿を希望される研究者・実務家の方は、[お問い合わせ]よりご連絡ください。
*本稿の引用・転載は、出典(一般財団法人日本危機管理研究所/著者名/URL)を明記いただく場合に限り自由です。見出しや文脈を変更した抜粋転載はご遠慮ください。
